2003年7月17日(木)「しんぶん赤旗」
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自衛隊の最高指揮官である小泉純一郎首相が「自衛隊員が相手を殺す場合がないとはいえない」などと突出した発言をすれば、閣僚や自民党議員からは政治家としての適格性を欠いた暴言、放言が次々と飛び出す−−。うっかり口を滑らせた程度の失言にとどまらず、報道されることを前提にのべているのが特徴です。(古荘智子記者)
戦争認識についての問題発言で閣僚が辞任した例は、一九九四年の永野茂門法相、桜井新環境庁長官など枚挙にいとまがありません。
「日韓併合は国連が無条件で承認した」などと講演でのべた江藤隆美衆院議員(江藤・亀井派会長)自身も九五年、「植民地時代日本はいいこともした」との発言から、総務庁長官を辞任しています。ただ、このときは記録を取らないことを前提にした「オフレコ」の場での発言でした。
政府の公式見解からも外れるような妄言が繰り返されることについて、経済小説家の杉田望さんは「与党三党が多数を占めて安定していることからくる緩みがあるのではないか。数の力で有事法制などが通ってしまう『何でもあり』の状況だ」と指摘します。
実際、小泉政権のもとでは竹中平蔵金融経財相の「(金融商品のETFは)絶対もうかります」、森山真弓法相の「断片的な情報をいちいち報告する必要はない」(名古屋刑務所暴行問題)など、タガの外れた閣僚発言が相次ぎました。
政治評論家の江藤俊介さんは「かつては問題発言がみずからの地位を危うくしたり、政局に発展する可能性があって政治家の側も自重した。いまは小泉首相や民主党の姿勢もあり、“いっても大丈夫”との計算があるのだろう」と分析します。
「憲法の前文と九条の間にすき間がある」(テロ対策特措法の審議で)など、小泉首相の憲法を敵視する発言が閣僚や自民党議員の緩みを招き、以前なら考えられない放言につながっていることは見逃せません。
森喜朗前首相は自民党の少子化問題調査会長、福田康夫官房長官は男女共同参画担当相、鴻池祥肇防災担当相は青少年育成推進本部副本部長といずれも担当分野の責任者です。
森氏は「こういう意見もあることを紹介しただけ」とのべ、みずからの意見ではないと強調しています。しかし、少子化問題を論じる公開の討論会で「どうしたら税の面で一番負担を楽にしてあげるか、恩典があるか、そういう話をみんなでしている」と説明しています。子どもの数で税制上の差別をする発想からの文脈なのは明らかです。
太田誠一党行革推進本部長の発言とあわせて、自民党内の女性議員からも「女性の人権、ひいては個人の尊厳に対する意識の希薄さを露呈させた」(野田聖子氏。「朝日」十二日付)と批判を受けています。
鴻池氏の場合は、表現が不適切だったと認めながら、「加害者の親も、担任も、校長も顔を見せるべきだとの主張は変わりません」(メールマガジン)と開き直っています。福田氏はオフレコの記者懇談の場で“本音”が漏れた形ですが、国会答弁では発言内容そのものを否定していません。
少子化や青少年問題を担当する資格のない人物が自民党や政府の要職に就きつづけるところに、問題の根深さがあります。一連の発言には、過去の歴史への無反省、女性べっ視と人権感覚の欠如など自民党政治の地金がはっきり表れています。
●小泉純一郎首相「自衛隊員でも、襲われたら、殺される可能性はあるかもしれない。そういう場合、戦って相手を殺す場合がないとはいえない」(7月9日、参院外交防衛・内閣連合審査で)
●麻生太郎自民党政調会長「(創氏改名は朝鮮人が)名字をくれと言ったのが、そもそもの始まりだ」(5月31日、東京大学での講演で)
●江藤隆美元総務庁長官「日韓併合は両国が調印して国連が無条件で承認した」「南京大虐殺の犠牲者が30万人というのはでたらめ」(7月12日、福井市内での講演で)
●太田誠一自民党行政改革推進本部長「集団レイプする人は、まだ元気があるからいい。正常に近いんじゃないか」(6月26日、鹿児島市内での公開討論会で)
●森喜朗前首相「子どもを一人もつくらない女性が自由をおう歌し、楽しんで、年とって、税金で面倒をみなさいというのは本当はおかしい」(同)
●福田康夫官房長官「女性にもいかにも『してくれ』っていうの、いるじゃない」「そういう格好しているほうが悪いんだ。男は黒豹なんだから」(非公開の場での発言。本人は「レイプを擁護したことはない」「発言の中身をいちいち記憶していない」と弁明)
●鴻池祥肇防災担当相 長崎市の男児殺害事件に関連し「(加害者の)親なんか市中引き回しの上、打ち首にすればいい」(7月11日、記者会見で)