2003年7月16日(水)「しんぶん赤旗」
「米国は、ポーランドが今回立ち上がったことを決して忘れない」
ブッシュ米大統領は五月末、ポーランドの古都クラクフで、イラク戦争を支持した中東欧の“新しい欧州”に特別の感謝を表明しました。
「ポーランドは今日、欧州と世界政治の場でより確かな足場を築きつつある。わが国は平和と安全保障について、国際社会の運命のための共同責任を引き受ける」
クワシニエフスキ・ポーランド大統領はこう応じ、自らの外交政策を自賛しました。
かつてソ連圏にあった中東欧十三カ国は二月初めまでに対イラク戦争で米国を支持する声明に署名。部隊派遣や基地の提供、領空通過の許可などを行ってきました。これは国連で孤立した米国への救援行動になりました。
オーストリア国際問題研究所のハインツ・ゲルトナー上級研究員はこの背景について、「イラク戦争を支持することで米国の支持を得られれば、近く加盟するEU内でより強い影響力を確保することが事実上可能になると考えたからだ」と説明します。東欧諸国のねらいは欧州連合(EU)のなかでの影響力確保にあるとの分析です。
確かに米国は、トルコのEU加盟を後押し、渋るEU側に圧力をかけてきました。EU内で西欧との利害が衝突したときには米国は頼りになる味方と映ります。背景にはEUの現加盟国に比べて劣る経済力の差があります。二〇〇一年のポーランドの一人当たりの国内総生産(GDP)は、九千二百ユーロ(約百二十六万円)、比較的豊かなチェコでも、一万三千三百ユーロ(約百八十二万円)。欧州委員会によると、〇四年に予定されるEU新規加盟国のうち、キプロスとスロベニアを除いた残り八カ国の一人当たりのGDPの平均は、EU加盟十五カ国の42%にすぎません。
「周辺大国よりも、遠くの米国を信頼するという考えも根強い」。ゲルトナー研究員は、安全保障上の理由についても指摘します。ポーランドは、第二次大戦でナチス・ドイツと旧ソ連に侵略・分割され、国家が消滅しました。旧チェコ・スロバキアのズデーテン地方もミュンヘン協定で割譲され、その後の国家解体の序章となりました。このため、現在の脅威は低いとはいえ、ロシアやドイツといった周辺の大国への潜在的な警戒感が広く浸透しています。
この関連で、別の識者が指摘するのは、旧ソ連による覇権主義支配への反発です。ソ連の崩壊から十年余。多くの国民のなかにはその対極としての米国にたいする幻想があります。それが実際には米国の一国主義の危険性にたいする認識を薄めているというのです。
ワルシャワにある国際安全保障戦略研究所のアントン・カミンスキ所長は「ポーランドは、ドイツやフランスなど欧州諸国との関係を軽視しているわけではない」と強調します。貿易の大半をEUに依存している経済関係がEU加盟でさらに強まると予想されています。六月半ばに発表された、チェコの調査会社CVVMの世論調査では、回答者が今後関係強化をすべき国として挙げたのは、米国よりもスロバキアやドイツ、ポーランドといった隣国でした。
米国が称賛する「新しい欧州」諸国は、イラク戦争に反対する国内世論とともに難しい選択をせまられています。
(ワルシャワで岡崎衆史)(つづく)