2003年7月11日(金)「しんぶん赤旗」
日本で犯罪をおかした米兵の日本側への引き渡し問題で十一日から二回目の日米協議がワシントンで開かれる予定です。しかし、米兵の特権を定めた日米地位協定の改定には手をつけない同協議には、早くも限界が浮き彫りになっています。
今回の協議は、七月二−三日に都内で行われたのに続くもの。直接の発端となったのは、五月末に起きた沖縄での米海兵隊員による女性暴行致傷事件です。このとき逮捕状をとってから、容疑者の身柄が日本側に引き渡されるのに二日間もかかりました。
地元沖縄では、米側の対応に批判が集中。「公務外」で犯罪をおかした場合、いったん基地に逃げ込めば、起訴までは身柄を米軍が確保し続けるという日米地位協定の改定を求める声が高まりました。
これを受け、六月十八日の日米合同委員会で、身柄引き渡し問題で日米協議を開始し、四十五日間で結論を出すことが合意されました。しかし、今回の協議は、日米地位協定の改定には踏み込まず、なんとか「運用改善」でごまかし、沖縄側の批判をかわそうというのが狙いです。
今回の協議での日本側の主張について外務省は「交渉ごとであり、お答えできない」とし、明らかにしていません。しかし、一九九五年十月に日米両政府が合意した地位協定の「運用改善」で、日本側の身柄引き渡し要請に米側が「十分に考慮する」とした米兵犯罪のケースが明示されていないため、その明確化などを求めているといわれています。
ところが、七月二−三日の第一回協議で「主要なテーマ」(外務省)になったのは、身柄を日本側に移した場合、米政府関係者をその取り調べに同席させるといった米国の要求でした。
この米国の要求に、沖縄県警の高橋清孝本部長は「取調官と容疑者の信頼構築が困難になり、認めるべきではない」とのべ、捜査の障害となるとの見解を示しています(「沖縄タイムス」四日付)。「運用改善」どころか、米軍に新たな特権を与えかねない状況です。
犯罪をおかした米兵の引き渡し問題の原点は、一九九五年に沖縄で起きた米海兵隊員による少女暴行事件で、米軍側が容疑者引き渡しを拒否したことに対する県民の怒りでした。八万五千人が集まった同年十月の県民総決起大会は、米軍基地の整理・縮小とともに地位協定改定を求めました。
県民の怒りを前に日米両政府が同年十月に合意したのが、先の「運用改善」でした。「殺人・強姦」といった凶悪犯罪に限り、身柄引き渡し要請に米側は「好意的考慮を払う」というものでした。「十分に考慮する」とされた「殺人・強姦」以外の「その他」の犯罪の場合も含め、いずれも米側の判断にゆだねるもので、引き渡しを義務づけたものではありませんでした。
「運用改善」の限界はすぐに浮き彫りになりました。飲酒運転した米海兵隊員が女子高生をひき逃げし、死亡させた事件(九八年十月)でも、米海兵隊員による飲食店放火事件(〇一年一月)でも、米側は起訴前の身柄引き渡し要求を拒否しました。
このため政府は、さらなる「運用改善」のために日米協議を二〇〇一年に三回開催しました。しかし、米側が、日本側に引き渡した容疑者の人権問題を主張したことから、協議がまとまらず、頓挫。今回、新たに協議を再開したものの、同様の要求を米側から突きつけられた格好です。
米軍犯罪の根絶のためには基地の撤去しかありません。しかし、少なくとも、沖縄では立場をこえて超党派の要求となっている地位協定の改定は、最低限の緊急課題です。それさえも取り上げず、「運用改善」の協議にとどめる政府の弱腰姿勢では、米軍犯罪の根絶は不可能です。(田中一郎記者)