日本共産党

2003年7月7日(月)「しんぶん赤旗」

シリーズ 取り戻せ働くルール

転勤いやなら辞表出せ

姫路→霞ケ浦700キロ。迫る企業。勇気振り絞り工場前に

「就労に来ました。入れてください」。2人の前に会社は立ちふさがった


 “遠距離転勤をしろ。いやなら二週間以内に辞表をだせ”――転勤が無理な労働者に突然、こう迫った企業があります。コーヒーの「ネスカフェ」で有名な大手食品メーカー、ネスレジャパングループ(従業員二千八百人)です。姫路工場(兵庫県香寺町)で働いていた六十人に霞ケ浦工場(茨城県桜川村)へ行けというのです。いったい労働者をなんだと思っているのでしょうか。(内野健太郎記者)


ネスレジャパン

写真
ネッスル姫路工場の門前で就労を要求する労働者と支援者たち

 「就労に来ました。入れてください」――。午前八時の姫路工場の門前で、出勤してきたAさん(47)、Bさん(53)の二人の前に管理職や守衛らが立ちふさがります。「あなたの職場は霞ケ浦工場です。はやく霞ケ浦にいってください」と管理職たちは、無表情に同じ言葉をくりかえします。

 AさんとBさんは、ネッスル日本労働組合や地域労連の支援を受け、六月二十三日から毎朝、「仕事をさせろ」と就労要求を続けています。

 二人は、この工場のギフトボックス係として働いてきました。ベルトコンベヤーで流れてくる箱に、「ネスカフェ」などのビンを次々につめていく仕事です。

眠れぬ毎日

 その箱詰め作業の廃止が言い渡されたのは五月九日。一カ月半後の六月二十三日までに霞ケ浦工場に異動してもらう、退職するなら特別退職金を支払うので二週間後の五月二十三日までに申し出るように、といわれました。

 「あまりに急の話で、ショックが大きすぎました。この年では再就職はむりやし、転勤もできへんと思った」とAさん。眠れない毎日をすごしました。

 Aさんは、地元の農家の長男で、五反(約五十アール)の田んぼや畑をつくっています。母親は骨粗しょう症で、痴ほうも進行しています。入浴などの介助が必要ですが、妻一人では母親を動かせません。子どもは小学生と中学生です。転勤できる条件はありません。

 Bさんの場合、十九歳の長男の死が重なりました。妻は病弱で、高校生と中学生の子どもの弁当もBさんがつくっています。「単身赴任しても、見知らぬ土地に妻をつれていっても、妻はますます精神的に不安定になると思う。まだ長男の四十九日もすませてないのに」と唇をかみます。

 姫路工場で箱詰め作業をしていた六十人は、ほとんどが現地採用。七人の女性を含め、四十九人が「転勤できない」とやむなく退職を選びました。その一人、Cさん(54)は「病弱な人間を会社は計画的に狙った」と憤ります。肝臓を患い、ことし一月にギフトボックス係に異動させられ、半年もたたないうちに職場がなくなったのです。「人生の最後で欺かれた」と病後に失業した不安を訴えます。

 転勤を選んだのは九人。七百キロ以上も離れた霞ケ浦に単身赴任しました。そのなかには、身障者雇用された耳の不自由な男性も含まれています。

 Aさんは転勤か退職かの二者択一を迫る会社にたいし、「姫路工場内での配転を」と要望し、がんばる決意を固めました。

 「『会社にはむかうのはやめとき』という人もおるけど、ほかにいくところないしね」と静かな口調のAさん。いったんは退職を考えたBさんも残ることを決意。仮処分を神戸地裁姫路支部に申請しました。県内各地をまわり、支援を訴えています。

労組が訪問

 Aさんが会社の不当なやり方に反対してがんばる決意をしたきっかけは、ネッスル日本労組の組合員がAさんらを家庭訪問し、その後、弁護士を囲む相談会に誘ってくれたことでした。

 ネッスル日本労組は、一九八二年から会社による組合つぶしの対象にされ、組合員が便所掃除や炎天下の草むしりをさせられるなど、徹底した差別にさらされてきました。同労組のビラを門前で受け取っただけでも、管理職から執拗(しつよう)な干渉を受けます。その組合の相談会に参加するのも、Aさんには勇気のいることでした。

 家族に介護が必要な者がいるのに、遠隔地への赴任を迫るのは、育児・介護休業法にも違反していることなどを弁護士からきいて、会社のやり方になんの道理もないことがわかりました。

 労働者の生活を壊して平然としている会社のやり方からは、「良い食品から良い生活が」という同社の宣伝文句がしらじらしく聞こえてきます。

 ネスレジャパングループは、二〇一〇年までに日本の食品企業のなかで十位に入る目標を設定。二〇〇一年の連結税引後純利益は百七十四億円にのぼっています。

 ネッスル日本労組姫路支部の播戸夏樹委員長は、「私の元の職場は、かつて七十人が働いていたが、いまは二十四人。徹底した人減らしで、『余剰』となった人員をギフトボックス係などに配置していたんですが、その仕事すら奪った。もうけのためには、労働者の人権などどうでもいいという考えだ」と語気を強めます。


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