2003年7月6日(日)「しんぶん赤旗」
国連の第二回高齢化世界会議 スペインで昨年四月開かれた会議。高齢者の尊厳と人権保障を求めた「二〇〇二年行動計画」と「政治宣言」を採択。各国政府にたいし(1)高齢者と発達の保障(2)健康権の保障(3)環境権の保障―を、三つの優先的方向として示しています。とくに健康権の保障を主柱としています。 |
日本人の18.5%、2363万人(65歳以上)が高齢者です。小泉内閣の福祉、医療改悪で負担は増すばかり。「すべての人の肉体的、精神的に最高水準の健康を享受する権利の保障」(高齢化世界会議の「行動計画2002」政治宣言)は、いま切実です。「安心して暮らせる地域づくり」のとりくみを各地にみてみました。
山 形 |
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山形県高齢者福祉生活協同組合(組合員千人=松浦隆隆理事長)は、高齢者自身が主体となって助け合い、自立をめざす生活協同組合として一九九九年に発足。「ゆうゆう百歳塾」などの生きがい文化活動や仲間づくり、仕事おこしなど、高齢者が安心して暮らせる地域づくりへ、多様な取り組みを進めています。
六十五歳以上の高齢者が四人に一人という全国有数の高齢化率(24・1%)の山形県では、高齢者の要求に根ざし、生活を支える事業が欠かせません。高齢協は、県内の主要都市に置く地域福祉事業所を拠点に、ヘルパー派遣事業、送迎移送サービスなど、自らが福祉の担い手となってより良いものをつくりあげる努力をしています。高齢協の事業費二億円余のうち六割を福祉事業部門が占め、本年度は医療生協、購買生協などと四者でつくる新しい事業協同組合で、ケア付き高齢者住宅を完成させる予定です。
高齢協が本部を置く鶴岡市では、給食宅配センター「味彩」が、毎日百二十食から百三十食を、すべて手づくりのあたたかさで届けています。
約八割が粥(かゆ)、刻み食などの治療食や高齢者向けメニュー。治療食は粥の濃度などきめ細やかに対応し、一食五百―六百五十円と安価なのも年金暮らしには魅力と評判です。
独居高齢者や高齢者世帯が増えている中で、声かけも大事な仕事の一つです。配達員は全員がヘルパーの資格をもち、ちょっとした会話の中で健康状態もつかもうと努力しています。
「高齢者、痴ほうのある方は意欲の減退から食事がおろそかになりがち。効率は悪くとも、地域に根ざした活動がますます必要です。公的に支援してもらえれば、もっと多くの人が利用できます」と話すのは管理栄養士の小川豊美さん(39)です。
組合員のボランティアが耕す「いきいき菜園」の新鮮な野菜は、おいしさと同時にコスト削減にも一役かっていますが、経営的には大変です。
日本共産党の加藤太一鶴岡市議団長は「高齢者、要介護者への食事提供は人権保障のうえからも重要な仕事。国、自治体は支援の充実が求められます。運動と協力し、制度充実に取り組んでいきたい」と話しています。
(山形県・阿曽隆記者)
大 阪 |
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中小企業の集積地で知られる東大阪市にある「街かどデイハウス・ひなたぼっこ」は、近鉄大阪線長瀬駅から歩いて五分、住宅街の一角にあります。
一戸建ての民家。表通りに面した茂みの向こうに縁側が見え、朝からお年寄りのにぎやかな笑い声が聞こえてきます。私が訪ねたときは、六畳二間の和室で、月一回日曜日に催す誕生日会の余興の練習中でした。「ここへ来たらほっとします」「この年になって、ええ勉強してます」などの答えが返ってきました。
「ひなたぼっこ」は、昨年十月、町内組織や地域の住民に温かく見守られてスタートしました。
普段は、月曜日から金曜日まで週五日、午前九時から午後三時までの六時間開いています。登録者四十人のうち、一日平均七―八人が利用しています。スタッフは十人、専任職員の所長をはじめヘルパーの有資格者がほとんどです。利用対象は、おおむね六十五歳以上の介護予防・生活支援が必要な“自立”の高齢者などです。
所長の和泉かつ子さん(61)は、八年前、「今のうちに老後に備えた人生設計を」と考え退職。周りの仲間に思いを打ち明けるうちに、「高齢者の施設づくりをすすめる近畿連絡会」などの活動家と出会いました。大阪府が実施する「街かどデイハウス支援事業」を知り、空き家探し、NPO(非営利団体)法人の立ち上げを経て、開設にこぎつけました。
和泉さんは、「年を取り虚弱や痴ほうになっても高齢者を一人の人間として尊重すること、そのための、住み慣れた地域にとけこんだ“支え合いの場所”でありつづけたい」と設立の理念を語ります。
最近では、障害をもった利用者がふえるなか、介護保険の認定手続きを手伝ったり、これらの人たちのため、この八月には介護保険指定通所事業の認可を取り、さらに“泊まり”ができる「街かどナイトハウス」をめざすなど、夢は果てしなくひろがります。
「近畿連絡会」は小規模多機能施設の公的助成を求める国会請願署名運動に力をいれています。
(粕野健一通信員)
福 岡 |
福岡県大牟田市のグループホーム「ひまわり」は、入居者が可能な限り自分たちで生活し、困難な部分を介護者が援助しているため、痴ほうが進みにくく、身体機能も回復しやすいと評判です。
現在入居者は、軽度の痴ほうをもつ高齢者が九人。職員は常勤一人、非常勤七人。第四土曜日には、数人の高校生ボランティアが来ます。
グループホームは、痴ほうや障害などで一人での日常生活が困難になった高齢者を対象に、家庭に近い環境の中で、小規模の見守り介護をおこなう施設です。大牟田市では、県や市の計画を上回り十数カ所が運営しています。
「ひまわり」は医療法人親仁会・中友診療所(民医連加盟)の二階にあることから、医療の面でも入居者に安心感をあたえています。他の施設へ紹介している独居老人で見守りが必要な痴ほう老人や、受け入れ施設がない長期入院患者の自前の施設としても期待されています。
同診療所事務長の北園敏光さんは、「開設で一番費用がかかったのはエレベーターといす」と語ります。エレベーターは一階との行き来につかいます。いすは、共同生活の基本となる広間においてあります。深く座れて、居心地の良いいすは、入居者にも、訪問者にも好評です。
部屋は、すべて個室で、プライバシーも守られ、一歩外に出れば話し相手がいます。部屋は好みに応じて和室、洋室が選べます。すべて洗面台と小さなベランダもあり、小物を干すこともできます。
朝・昼・晩の食事も、毎月メニューが決まっているのではなく、「今日は暑いから、何か冷たいもの」「今日は寒いから、ほかほかあったまるものがいいね」と、天気や気温に応じてつくります。「今日の夕食は、なんだろうね」と、訪問客との会話もはずみます。
月に一度、温泉旅行やお花見やドライブなど、みんなで外出をします。入居当初「あたしは行かんよ」と言っていた人も、今では、出発前にはお気に入りの服を用意してウキウキ。
施設長の根本佐智子さんは「元気をもらっているのは私たちの方かもしれませんね」といいます。「みなさん、自分でできると自信がつくんです。入居前に比べ、とても元気になり、肌のツヤも良くなりました。私たちも、自然に手助けしています。ここでは患者と介護者の垣根はありません」
(福岡県・三牧琢磨記者)