日本共産党

2003年7月1日(火)「しんぶん赤旗」

農水省の開門調査報告書に欠陥

浮泥の浄化効果見落とす

諫早湾干拓 専門家が見直し申入れ


 農水省が最近まとめた諫早湾干拓事業の短期開門調査報告書の結論部分に調整池の浄化対策にかかわる重大な問題点のあることがわかりました。問題点を指摘したのは海洋化学の専門家・佐々木克之・元中央水産研究所研究室長。同氏は農林水産大臣と調査の指導・助言をした開門総合調査運営会議(座長・塚原博九大名誉教授)にたいし、結論の見直しを求める公開申し入れ書を送付しました。

 佐々木氏が指摘したのは、水質に関するデータの解釈の問題です。調整池から日常的に排出されている汚濁水は有明海の大問題で、解釈の違いはその浄化対策にかかわるからです。

 短期開門調査は昨年四月末から約一カ月実施され、海水を調整池に導入したことに伴い調整池の水質に関する濃度が減少し、きれいになりました。その減少理由について報告書は、「海水導入による希釈効果等に伴う減少」とまとめています。

 佐々木氏によると、水質濃度の減少は希釈効果だけではなく、導入された海水で調整池にただよっていた浮泥(粘土粒子)が凝集し、そのときにチッソやリンを吸着して沈降・堆積(たいせき)することによって水質がきれいになります。その効果を農政局が見落としていると指摘しています。

改善策を誤らせる

 佐々木克之氏の話 調整池を淡水化することによって浮泥の浄化効果をなくしたことが調整池水質悪化の大きな要因です。これを見落とすことは、調整池水質改善策を誤らせる重大問題です。科学的な理解なしに適切な対策を実施することはできないということを農水省は認識すべきです。


解説

非科学的な対策では有明海が死の海に

 佐々木克之・元中央水産研究所研究室長が指摘した点は農水省のたんなる見落としではすまない問題を含んでいます。調整池から一カ月五百万トン―五千三百万トンも排出される汚濁水が諫早湾、有明海の重大な汚染源になっており、その改善対策にかかわるからです。その対策が非科学的では、有明海が死の海にもなる問題です。

 短期開門調査は、諫早湾を閉め切った潮受け堤防の排水門を開けて、調整池に海水を導入し、調整池や海域にどのような変化が生じるかを観測しました。

 観測の結果、海水の導入に伴い調整池の水質がきれいになったことを示すデータが得られました。濁り、リン、チッソのいずれの数値も減少しました。問題はその解釈に誤りがあるとの指摘です。

 海水を導入すれば調整池の水質がなぜよくなるのかは次のように説明されています。

 有明海に注ぐ河川に多く含まれる粘土粒子は、淡水中では分散して懸濁していますが、川から海水中に入ると、海水に反応して粘土粒子どうしがくっつきあって凝集する性質をもっています。凝集する際、水中のチッソやリン、有機物などを吸着し成長します。大きくなった粒子は沈降、堆積(たいせき)します。この結果、水質がよくなるというわけです。佐々木氏はこうした浄化効果を報告書が無視していると指摘しています。

 もう一つは開門による海域への影響の問題です。

 長崎県の金子知事は、中・長期開門調査を実施すれば、「計り知れない悪影響が懸念される」と実施反対を政府に要望しています。

 しかし、開門調査のデータは、海水が導入された結果、調査終了時の諫早湾への悪影響(負荷量)は大きく減少したことを示しています。佐々木氏は、中・長期開門調査を実施すれば、ごく一時的な悪影響はあっても、現状の閉め切ったままより、海域に与える影響はよほど改善されると強調しています。第三者委員会の提言どおり、中・長期開門調査は実施すべきです。(松橋隆司記者)


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