2003年6月30日(月)「しんぶん赤旗」
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謎の浮遊物はどこからきたのか―これを知る手掛かりとして公的機関の最初の確認記録を探しました。
海上保安庁三池海上保安部は五月七日昼ころ、諫早湾内の長崎県小長井町沿岸部にドロドロした黒い浮遊物があり、刺し網等に被害が出ているとの長崎県水産部からの通報をうけていました。小長井町沿岸に被害が発生していた点が重要です。この通報で巡視艇「すいれん」が出動、大牟田市と諫早湾口を結ぶ有明海中央部で長さ約十三キロメートルにわたって帯状に広がる浮遊物を発見、ついで島原半島沖三カ所でも最長一・一キロにわたって漂う浮遊物を確認しました。
潮の流れは、諫早湾から島原半島にそって南下しており、漁民らは諫早湾から発生したとみています。
漁民の報告の中で注目されるのは、前兆現象が見られたことです。一つは透明度が異常によくなったこと。島原市の漁船漁業者(38)によると浮遊物が漁網にかかる五月四日以前の一日か二日前です。「普段は見えない六メートル下の海底がよく見えたので驚いた。普段は二―三メートルしか見えないのにおかしいと思った」といいます。
長崎大学の東幹夫教授は「浮泥が有機物を吸着して大量に沈降したための現象ではないか」といい、諫早湾閉め切り後、潮の流れが弱まっているため浮泥が大量に沈降しやすくなっていると考えています。
もう一つの前兆は、「五月一日ころから海中に、五センチほどの透明な糸のようなものが無数にただよっていて、二日、三日ころには透明なクモの巣状のものがたくさんただよっていた」という同じ漁業者の証言です。
いずれにしろ、これまで漁民が経験したことのない異常な現象は、有明海の現状を示して象徴的です。
有明海は、干拓事業で諫早湾を閉め切られたために広大な干潟域を失い、水質浄化と稚魚の揺らんの場を奪われました。調整池を造ったために日常的に排出される汚濁水の悪影響を受けるようにもなりました。その上、諫早湾の閉め切りで「海洋環境の根幹」といわれる潮の流れが弱まり、赤潮の増大や貧酸素海域の拡大、海底の泥化の進行などさまざまな悪影響に悩まされるようになりました。
農水省はそれでも干拓工事をしゃにむに強行しています。謎の浮遊物は、有明海悪化の歯止めなき現状を警告しています。
(おわり)
松橋隆司記者