2003年6月28日(土)「しんぶん赤旗」
参院本会議で可決・成立した改悪労働基準法は、目先の利益確保のためにリストラに走る大企業・財界の要求にこたえて、労働者の多数を低賃金と不安定雇用、際限のない長時間・過密労働に駆り立てるものです。
失業者が三百七十五万人にのぼるなど国民が失業増と過労死の不安にさらされているときにこれに拍車をかけることは、雇用と暮らしの安定に努める政治の責務を投げ捨てたとしかいえません。
労基法を空洞化する改悪について政府は「雇用の選択肢が増える」「個性と能力に応じた働き方」とごまかしました。
しかし、政府の国民生活白書でも、四十七万人にのぼるフリーターの七割が正社員を希望しています。ILO(国際労働機関)条約や欧州諸国では、有期雇用は臨時的・一時的なものに限定しており常用雇用との均等待遇が当然のルールです。
裁量労働制についても社会経済生産性本部の調べでは七割の労働者が「サービス残業がある」と答えています。異常な長時間労働については国連社会権規約委員会が勧告を出すなど、その短縮は国際的責務となっています。
労基法改悪がいかに国民の願いに背き、世界の流れに反しているかは明らかです。
有期労働の拡大ではなく常用労働との均等待遇をはかることや、裁量労働制は限定的なものにとどめ厳しく規制することが必要です。
法案の重大な矛盾や欠陥が露呈するなかで数を頼んで推し通したとしても、労働者との矛盾は深まらざるを得ません。
有期雇用についても、「三年たったら解雇となる」との指摘に、初めは「企業の人事戦略による」と否定しましたが、審議で深刻なリストラの実態を示され、「歯止めをつくらないといけない」(坂口厚労相)と答弁せざるを得ませんでした。
雇用の安定、労働時間短縮を求める国民の願いに逆らうことはできません。
一方で、国民の運動と国会論戦のなかで、今後のたたかいの基礎となる成果も得られました。
とりわけ、「解雇権の乱用禁止」が労基法に初めて明記されたことは、不当解雇を許さず雇用を守っていくうえで大きな力となるものです。
答弁で、常用労働が有期雇用に置き換えられないよう「基準」や「歯止め」をつくることを坂口厚労相が認めました。
有期労働者に育児・介護休業法が適用されない問題についても「審議会を踏まえて対処する」(岩田喜美枝雇用均等・児童家庭局長)と表明。
裁量労働制も適用範囲を本社以外に広げるものの、業務内容など他の導入要件は「変えない」「ホワイトカラーなら何でも適用とはならない」と答えました(松崎朗労働基準局長)。答弁を守らせ実効ある措置をとらせることが必要です。
労基法をめぐっては今後、不当解雇しても「金を払えばよし」とする金銭解決案や、ホワイトカラー全体を労働時間規制の枠外に置く改悪などがねらわれています。
しかし、こうした改悪は、失業の増大と所得低下に拍車をかけ、消費をさらに冷え込ませるものです。企業の経済活動も落ち込み、経済破たんを強めるだけで未来はありません。安定した雇用の確保は国民の暮らしの土台であり日本経済の再建にとっても不可欠です。 (深山直人記者)