2003年6月16日(月)「しんぶん赤旗」
参院で審議中の労働基準法改悪案は、使用者の解雇自由の条文は削除されましたが、有期雇用の上限延長や裁量労働の手続き緩和が労働者の雇用と暮らしに大きな害悪を及ぼすことがいっそう鮮明になりました。
審議を通じて明確になったのは、雇用のルール破壊が大企業を応援する以外に何の理由もないことです。
小泉首相は、有期雇用の上限を原則一年から三年に延長すれば「労使双方にとって良好な雇用形態として活用される」とのべました。
有期雇用は延長しても労働者にメリットはありません。三年で「雇い止め」の不安にさらされ、継続雇用を望めば企業にものも言えません。若者が数年で雇い止めになれば、若年退職制につながります。
企業にとっては契約社員などを使いやすくなり、正社員の不安定雇用への代替が劇的に進むでしょう。
政府が「常用と有期労働者の構成は企業の人材戦略で決まる」、正社員の代替を「直ちに招くものとは考えていない」と答弁したのは、現実無視の許しがたいごまかしです。
財界は長期雇用は基幹社員だけで派遣、契約社員、パートを多数にし低コストで利益をあげる戦略を唱え、すでに大企業はこうした人材戦略に走っているからです。実際この三年間で、正規雇用は百八十六万人減り、不安定雇用が二百二十三万も激増したことはその証左です。
若者の採用が不安定雇用ばかりになれば、四百十七万人を数えるフリーターはさらに増加します。フリーターの激増は何をもたらすのか―。日本経済を担うべき若年の職業能力が高まらず、経済全体の生産性が低下し経済成長の制約になると「国民生活白書」も警告しているのです。
しかも有期雇用では、独身者が結婚したり、妊娠すれば雇い止めにされる恐れがあります。働きながら子育てしたくても、有期雇用には育児・介護休業も適用されません。政府の少子化対策にも逆行します。
契約社員などで三年雇用するのなら、期間の定めのない常用雇用とすべきです。差別されている契約社員やパートの労働条件を、正社員と均等待遇にすることこそ必要です。
企画部門の裁量労働を本社以外に広げ、手続きを緩和することを「多様な働き方を選択できる」、労使で話し合うので「サービス残業の合理化につながらない」という政府答弁は何の道理もありません。
すでに裁量労働を導入した企業では、月二十時間程度の残業代相当の手当を支払うだけで、月四十、五十時間も残業する不払い残業と長時間労働が恒常化しているからです。
裁量労働の拡大は、財界の狙うホワイトカラー全体を労基法の労働時間の規制から除外する一里塚です。増大するホワイトカラーを、労働者保護の規制から外して無法状態に置くというのは時代錯誤の暴論です。
いま必要なのは過労死を多発させる長時間労働や企業犯罪である不払い労働など、世界に恥ずべき日本の労働実態を改善することです。
国連社会権規約委員会が、日本で過度の労働時間を許しているのは人権問題として、削減を勧告しています。世界でも特異な裁量労働の拡大をやめ、ただ働きを含む長時間労働を解消することが政府の責務です。
生存権や最低基準の労働条件を保障した憲法と労基法の理念にも背く改悪ではなく、働く国民に人間らしい労働と生活を保障し、雇用の安定をはかることこそ政治の使命です。