2003年6月13日(金)「しんぶん赤旗」
大量破壊兵器「保有」の根拠が次つぎと崩れ、イラク戦争の根拠そのものが大きく揺らぐなか、小泉・自公政権はこの無法な戦争を前提に、「復興支援」の名でイラクに自衛隊を派兵する「イラク復興支援特別措置法案」を国会に提出しようとしています。それは、イラク国民の意思に基づく本当の復興に逆行し、日本国憲法をも蹂躙(じゅうりん)するものです。
法案は、イラク戦争によって軍事占領を続けている米英軍を支援するために自衛隊を派兵することを定めています。
重大なのは、米英両国によるイラクへの侵略戦争を追認し、その軍事占領を正当なものとして前提にしていることです。
法案は「目的」で、イラク戦争について「国連安保理決議六七八、六八七、一四四一、これらに関連する同決議に基づき国連加盟国によりイラクに対して行われた武力行使」と規定し、正当化しています。
これら一連の国連安保理決議は、小泉純一郎首相がイラク戦争を「国連憲章に合致する」と強弁し、支持を表明した際にもちだしたものですが、今回の対イラク武力行使を認めたものはいっさいありません。
国連憲章に違反する先制攻撃、侵略戦争への支持を、こんどは法律によって国会と国民に押しつけようというのです。
しかも、イラク戦争の根拠とされた大量破壊兵器は、バグダッド陥落から二カ月たった今も発見されていません。
十一日の党首討論では、日本共産党の志位和夫委員長がイラクの大量破壊兵器保有の具体的根拠をただしたのにたいし、小泉首相は答弁不能に陥りました。戦争の根拠そのものが大きく揺らいでいるのです。
法案は、「国家の速やかな再建」に向けての「イラクの国民による自主的な努力を支援」するとしています。
しかし、法案によって自衛隊が支援することになる占領体制の実態はどうなっているでしょうか。
米占領当局は当初、イラク暫定政権発足に向け、数百人規模のイラク人勢力を結集した国民議会確立を掲げていました。しかし突如、二十五〜三十人のイラク人を米国が任命し、「政治評議会」を立ち上げるという方針に変更しました。米当局に権限を事実上集中し、軍事占領の長期化をはかる構想にたいして、親米派のイラク人組織七派も米軍撤退の計画を求めるなど、いっせいに反発しているのが実態です。
法案はまさに、大義なき戦争を正当化し、イラク国民の「自主的な努力」さえ踏みにじり、軍事占領の長期化を支援するものにほかなりません。
法案にもとづく自衛隊の米英軍支援は、海外での武力行使を禁止した憲法を蹂躙するものです。
もともと政府は「相手国の領土の占領、そこにおける占領行政などは、(憲法が認める)自衛のための必要最小限度(の実力の行使)を超える」(一九八〇年五月)との憲法解釈を示していました。この解釈からいっても、米占領軍への支援はできないはずです。
法案は、自衛隊の活動を「戦闘行為が行われることがないと認められる地域」に限定するとしています。「非戦闘地域」での支援だから、「米軍の武力行使と一体化」することはなく、憲法に反しないという理屈です。しかし、イラクの実態はどうでしょうか。
「われわれは、同盟軍に対する断続的な攻撃を受けている」―。米中央軍当局者が四日の記者会見でこう語ったように、戦闘は継続中です。日本の外務省も「散発的な戦闘が行われている」と認めています。
実際、占領統治の開始後も、イラクのほぼ全域で戦闘などにより米英軍の死者が発生しています(図)。「戦闘地域」と「非戦闘地域」との線引きはもともと不可能で、与党内からも「戦闘行為が行われていないと認められる地域などイラク国内にあるのか」との批判があがっているほどです。
法案は、派遣自衛隊の近くで戦闘行為が行われたり、それが「予測」される場合には、活動を「一時休止」したり、「避難」するなどして「危険を回避」するとしています。
しかし、自衛隊の準機関紙「朝雲」五日号で、防衛庁防衛研究所の主任研究官は、自衛隊による陸上輸送について「ゲリラなどの待ち伏せに遭い攻撃される危険性もある」ため、「輸送部隊に加えて護衛の陸自普通科部隊と装甲車などの装備も送り込まねばならなくなる」と、重武装の必要性を指摘。「普通科部隊は戦闘部隊であり、現地では『治安維持部隊』と一体化して見られる恐れがあり、狙われる可能性も高まる」「最悪の場合、自爆テロの目標にさえなりうる」とのべています。
自衛隊が米軍とともにイラク国民にたいして銃口を向け、殺傷する危険は、法案によってなくなるどころか、ますます大きくなるのです。
【安全確保支援活動】 ・「イラク国内の安全・安定を回復する活動」を行う米軍などへの医療、輸送(武器・弾薬を含む)、保管、通信、建設、修理、整備、補給など
【大量破壊兵器等処理支援活動】
・大量破壊兵器などの収集、保管、無害化など
【人道・復興支援活動】
・医療
・被災民への生活関連物資の配布、収容施設の設置
・施設・設備の復旧・整備など
「日本がアメリカ支持を続けたら、アラブの友人はみんな失うぞ」――日本政府が米国のイラク戦争を支持したことに、中東諸国から警告の声があがっています。
日本はこれまで中東諸国に、直接の軍事的脅威を及ぼしてきませんでした。そのため日本に対しては、憲法九条を持ち、平和を追求する国としての親近感もあり、外交的に良好な関係を維持してきました。
それが、今回のイラク戦争支持で、日本に対する冷ややかな視線と深い失望感が広がっています。自衛隊派兵はそうした反日感情の火に油を注ぐことになりかねません。
いま、長年の経済制裁と戦争で疲弊したイラク国民への直接の援助が急がれています。日本政府が支援すべきは、米英の占領軍ではなく、非政府組織や国際援助団体によるイラク国民への援助活動です。