2003年6月12日(木)「しんぶん赤旗」
総合商社大手の伊藤忠商事の二〇〇二年度決算(単体決算)で、法人税等(法人税、住民税および事業税)の納税額がマイナス二十九億四千八百万円となりました。これは連結納税制度を伊藤忠が今回初めて選択したためといいます。どういうことなのか、その問題点をみました。(今田真人記者)
連結納税制度は、多数の子会社を擁する日本の大企業グループに対し、国内の親会社とその子会社の黒字と赤字を通算し、親会社が窓口となって法人税を、税務署に納税する仕組み(選択制なので各社が選択しなければ適用されない)です。
日本の大企業の持ち株会社化・多国籍企業化の中で、それに合わせるための税制として、財界が長年、その実現を迫ってきた新たな大企業優遇税制の一つです。また、深刻な国内不況の下、赤字企業がグループ内にあればあるほど、大企業グループ全体の法人税負担を軽減することにもなる露骨な大企業減税です。
小泉内閣・与党は財界の意向に忠実に沿って、二〇〇二年度税制「改正」の柱の一つとしてその導入を決定。その法案を昨年六月二十六日の国会で、与党三党(自民、公明、保守)と民主党の賛成多数で可決・成立させました。日本共産党は反対しました。
では、連結納税制度が大企業グループに具体的にどのように適用されるのか――。伊藤忠グループについてみてみます。同グループは内外に四百六十八の子会社を擁する巨大企業で、伊藤忠商事はそのトップに君臨する実質的な持ち株会社となっています。
同社の広報担当者によると、伊藤忠(親会社)の〇二年度単体決算で、法人税等の納税額がマイナスになっていることについて、「連結納税制度による法人税負担の調整で、親会社が窓口となって税務署に納税し、その残りを、赤字となった親会社(別項)が利益として計上したため」といいます。
複雑な仕組みなので、財務省の同制度の担当者に説明を受けました。それを図にして考えます。(図)
図の例は、親会社の〇二年度の単体決算(損益計算書)が、二十(単位は省略)の赤字となり、その子会社が同五十の黒字になったというモデルです。
連結納税制度を選択しない場合、黒字会社だけに課税されるので、グループ全体の法人税納税額は、子会社の黒字額五十に税率30%をかけた十五になります。
ところが、このグループが連結納税制度を選択すると、図の計算式のように、税率は32%(法人税率30%に二年間限定の付加税2%を上乗せ)になるものの、グループ全体の法人税納税額は九・六ですみます。連結納税制度を選択しない場合と比較して五・四の減税となります。
それだけでなく、連結納税制度を選択した場合、赤字となった親会社には、赤字額に税率32%をかけて計算した六・四が利益として戻ってきます(赤字であれば子会社も同様)。
これが、今回明らかになった伊藤忠の法人税等のマイナス額二十九億四千八百万円の意味するところで、事実上の税還付(税金が戻ってくること)です。
赤字となった親会社 伊藤忠商事の〇二年度の単体決算(損益計算書)の税引前利益は二百四十億円で、企業会計上では黒字企業です。しかし、同社によると、「受取配当の益金不算入」(大企業優遇税制の一つ)の適用で、親会社が受け取る子会社からの多額の配当金を、税法上の利益(益金)として計算しないなどのため、税法上は赤字企業(欠損法人)になったとしています。