日本共産党

2003年6月11日(水)「しんぶん赤旗」

国立大学法人法案

参院文教科学委 参考人の意見陳述(要旨)


 参院文教科学委員会で三日行われた、国立大学法人法案に関する参考人質疑での、大阪大学社会経済研究所教授・小野善康氏、東京大学社会科学研究所教授・田端博邦氏、元大阪大学事務局長・糟谷正彦氏の意見陳述の要旨を紹介します(発言順)。

評価次第で組織存亡も

大阪大学社会経済研究所教授 小野 善康氏

 私は数カ月前に、「研究所再定義問題」を経験しました。これは、国立大学が法人化されるのに伴い、活動レベルの低い研究所を今のうちに整理しようということで始まったものでした。最初聞いたときには「いいことだ」と思いましたが、ふたを開けたら我々の研究所が廃止の検討対象となっていました。その理由は、規模が二番目に小さいからだといいます。規模の大小と研究レベルは無関係です。我々の研究所は、発表している国際査読論文数で見れば、全国で一、二位を争っています。それなのに「研究レベルが低いから整理する」と言われたのです。

 私たちは納得がいかず、情報収集や反論のための資料作り、対策会議に奔走しました。その間約五カ月、研究はほとんどできませんでした。

 我々の研究所は何とか残りましたが、伝統ある社会情報研究所を含め二つの研究所がつぶされました。特別委員会の報告書には「規模が小さい」「長期間組織の見直しがない」「外部のカネをとってこない」「活動が見えない」などの問題点が列挙されました。小さい規模で高い生産性を上げることこそが構造改革の精神にも合っているはずですが、規模が小さいことが問題視される。カネをあまり使わずに効率よく研究しろと言われるならわかりますが、研究は横においてもカネをとってこいと言う。このような評価結果は納得できません。結局、小さくて抵抗の少ないところをつぶして実績をつくろうとしているようにしか見えません。

 この体験を通じて、我々は方針を転換せざるをえませんでした。研究はほどほどに、カネをとることや文科省対策、規模拡大を考え、そのための文書作成や会議に日々追われています。

 今度の法案では、文科省内の評価委員会が各大学の実績を評価するという。その評価次第で組織の存亡すら決められる。「ああしろこうしろと細かい口出しはしない」と言われても、評価される側は文科省の意向をしんしゃくし、顔色をうかがうようになります。

 我々が経験したことは、法案が実施された場合の前哨戦だったと思います。研究し、論文を発表し、教育し、政策提言をするのが我々の本来の仕事だし、社会への責任であるはずです。それがないがしろにされることを危ぐしています。

教育研究になじまない

東京大学社会科学研究所教授 田端 博邦氏

 国立大学の独立行政法人化が最初に議論になったのは、行政改革会議においてです。一九九七年十二月の行政改革会議「最終報告」では、法人化について「長期的な視野に立った検討を行う」、つまり当面は行わない、とされました。同年十月、町村信孝文相(当時)の「所信」は法人化「反対」を明言しています。九八年六月の中央省庁等改革基本法では、国立大学は独立行政法人化の対象から明確に除外されました。

 これがかわったのは、九八年、小渕首相の施政方針演説で国家公務員の20%削減が言われてからです。「大学改革」の議論から法人化が必要とされたのではなく、「行政改革」の議論から法人化が必要とされたのです。

 そのため、今回の法案は、名称は「国立大学法人法案」ですが、骨格は九九年七月に成立した独立行政法人通則法と同一です。一般に、独立行政法人は業務遂行においてはかなりの自由度を持ちますが、業務の基本的な方針は主務大臣の命令に従うとされます。このような法を基礎としているため、法案には、教育研究になじまない様々な問題が含まれています。

 例えば、多くの議論を呼んでいる「中期目標」「中期計画」の用語や仕組みは、独立行政法人通則法のものです。「なぜ目標や計画を大臣が決定・認可するのか」という質問に、文科相は「国費投入があるので国の最小限の関与が必要」と説明されますが、関与のあり方には様々なものがありえますので、それだけでは説明になりません。

 法人への移行に関しても問題があります。国立大学協会が作成した五月七日付文書は、法案が成立しても労働安全衛生法に適合しない状態が残ることなどについて運用上の配慮をお願いしたいということを述べています。裏返せば、法人移行には様々な困難が伴う、追加的財政支出も必要である、「学問の自由」「大学の自治」に関する不安もあるということです。

 文科相は「国立大学の自主性・自律性を増し、大学の教育研究を活性化することだ」と法案のねらいを述べますが、国立大学の関係者は必ずしも喜んでこれを受け入れていません。東京大学でも、理・工・教養学部という大所帯の部局が、最近相次いで法案に批判的な見解、コメントを発表しました。非常に大きな不安がひろがっているのが現場の実情です。

もっと大学を信頼して

元大阪大学事務局長 糟谷 正彦氏

 私は平成二―六年の満四年一カ月間、大阪大学事務局長として勤務しました。教育研究をサポートする事務の観点から意見を申し上げます。

 大阪大学は「地域に生き世界に伸びる」をモットーに先見性のある改革を進めてきました。基礎工学部や人間科学部の発足、医療技術短期大学部の医学部保健学科への改組などを全国に先駆けて実施しました。また、最近「大学発ベンチャー」が事新しく言われますが、昭和九年に誕生した附置研の微生物病研究所に財団法人阪大微生物病研究会を設立し、BIKENというブランドのワクチンの製造販売を開始し、現在も行っています。「法人化して外部資金を集める」「ベンチャーでもうける」と軽々しく言われますが、阪大微研でも年間七十―八十億円の収支のうち大学に入れていただくのは年一億円程度です。感染症が人気がない時期にもしっかり研究しているから、何かあればすぐ対処できるという面もお考えいただきたい。また、平成六年にはアサヒビール株式会社から三億円いただき、大阪大学出版会を立ち上げました。

 このように国立大学は地域社会や地元産業界と連携しつつしっかり運営してきました。下手にいじり回さず、もっと大学を信頼すべきです。

 法案への具体的な疑問の第一は、屋上屋を架す会議という点です。役員会、経営協議会、教育研究評議会が重複する。これでは機動力を欠きます。

 第二に、非公務員型にしたために、国立学校設置法と教育公務員特例法に定められた教授会の権限の規定が消えることです。憲法二三条違反という問題も出てきます。大阪大学では、最先端の学問分野を考慮した教員人事が教授会自治のもと適切に行われてきました。民間の経営者が入っても、そうした判断はできません。

 第三に会計監査の重複です。新法人には二名の監事がおかれ、さらに監査法人が監査する。同時に国費が入るので会計検査院も検査する。従来の三倍の書類と手間が必要です。

 第四に不明確な評価基準です。研究業績の評価はできても、組織の業務をどう評価するのか。認可事項も多く、これでは足かせをはめられて身動きができません。

 国立大学の法人化は、「独立行政法人の土台は借りるが、大学の教育研究の特性に合った特例措置を定める」という線でスタートしたはずです。その基本線に立ち戻るべきだと考えています。


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