2003年6月11日(水)「しんぶん赤旗」
イタリアで六月十五、十六の両日、解雇規制の適用範囲をすべての被雇用者に拡大することについて是非を問う国民投票が行われます。賛成派が勝利すれば、解雇規制の緩和を狙うベルルスコーニ右派政権と財界にとって大きな痛手となるため、連日、激しい攻防戦が繰り広げられています。
国民投票は憲法の規定に基づいてイタリア共産主義再建党が提案し、承認されたものです。有権者の過半数が投票し、有効投票の過半数に達すれば成立します。
労働者や労働組合の諸権利を明記した法律「労働者憲章」(一九七〇年)は、企業が労働者を解雇した際に、裁判所が解雇に正当な理由がないと判断した場合、企業はその労働者を原職復帰させることを義務づけています。ただし同法は一方で、この義務の適用範囲を従業員数が十五人を超える企業や事業所に限る文言も持ち、零細企業での不当解雇の抜け道ともなってきました。
国民投票は「憲章」およびそれに関連する二つの解雇規制法にある「人数制限」を全廃し、すべての企業、事業所に適用することを提案、有権者はそれに賛成か反対かを表明します。
「憲章」に代表されるイタリアの解雇規制は、欧州内でも最も厳格な法律の一つとされ、実際、これまでも労働者を不当解雇から守る力となってきました。しかし二年前に発足したベルルスコーニ右派政権と財界は、解雇規制が労働市場を硬直化させ、企業の国際競争力を奪っているとして、攻撃を繰り返してきました。
労働組合側は強く反発し、三大労組の統一ゼネストも含めた大運動で反撃を続けてきました。ところが昨年七月に政府と財界は、失業手当の改革などをてこに、最大労組のイタリア労働総同盟(CGIL)を除く二労組を抱き込むことに成功し、解雇規制の一時停止を盛り込んだ政労使協定を結びました。
同協定は、今後一定期間に、新規採用を行うことで従業員が十五人を超えた企業に対しては、解雇規制の適用を除外することを合意しました。現在、上院で同協定の内容を盛り込んだ法案が審議されており、右派勢力が過半数を占める中で緊迫した状況にあります。
しかし、今回の国民投票で賛成派が勝利すれば、被雇用者は例外なしに解雇規制の適用対象となります。審議中の法案のような抜け道は許されなくなり、解雇規制緩和の策動を阻止することができます。
イタリアでは伝統的に、従業員が十五人に満たない中小零細企業が多く、現行の解雇規制制度で保護される労働者は全体の42%にとどまっていました。経済紙の試算によると、人数制限を取り払うことでさらに三百万人の被雇用者が解雇規制の対象となるとみられ、画期的な権利拡大となります。
危機感を募らせた政府と財界は攻撃を強めています。イタリア産業連盟のダマート会長は、解雇をめぐる労働裁判が多発することで市場の効率性が奪われていると強調、「賛成派が勝つとより多くの失業と闇労働が増える」などと脅しをかけています。同連盟は他の財界団体十五組織とともに「反対委員会」を結成。ベルルスコーニ首相も記者会見して国民に棄権を呼び掛けました。
一方、再建党と中道左派連合「オリーブの木」の一部は「賛成委員会」をたちあげ、「すべての人に解雇規制を」と訴えてキャンペーンを展開。イタリア労働総同盟も「自分自身と万人にいっそう確実で質の高い労働条件を獲得する」重要な機会だとして、賛成投票するよう呼び掛けています。
ただ、政労使協定を受け入れた二労組が棄権を呼び掛ける運動を展開しているほか、「オリーブ」の主要政党も賛成投票の姿勢を明確にしないなど複雑な状況もあり、賛成派が勝利するかどうかは予断を許しません。(島田峰隆記者)