2003年6月8日(日)「しんぶん赤旗」
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国立大学法人法案が、「学問の自由」を踏みにじるものであることは、この間の国会審議の過程でますます明らかになってきました。
最大の問題は、「文部科学大臣」が「六年間において」「達成すべき」「中期目標」を「定める」という法案第三〇条第一項にあります。
しかも、この「中期目標」の最初に、「教育研究の質の向上に関する事項」と規定されています。
これでは、文部科学大臣が、各国立大学における、教育と研究の在り方を、勝手に決めて指示することになりかねません。
さらに、文部科学大臣が「定め」た「中期目標」に対して、それを実行するための「中期計画」を大学側が作成するのですが、これについても文部科学大臣の「認可」が必要になります(法案第三一条一項)。そしてこの「中期計画」が「不適当となったと認めるとき」、文部科学大臣は、その変更を命令できるのです(法案三一条四項)。
国立大学における学問は、完全に文部科学省の統制でがんじがらめになります。
制度的に言えば、国立大学における「教育研究」は、文部科学省の命令による国策教育になるということです。これは明らかに、教育基本法一〇条の、教育行政の「不当な支配」を排除するという規定に違反します。
けれども、三月二十日に出された教育基本法改悪をねらう中教審の「答申」では、この一〇条の二項、「教育行政は、この自覚のもとに(「不当な支配に服することなく」を指す―筆者注)、教育の目的を遂行するに必要な諸条件の整備確立を目標として行われなければならない」の「『必要な諸条件の整備』には、教育内容等も含まれる」とあるのです。
中教審の「中間報告」では、「大競争時代」を勝ち抜くための国策研究の方向として、「我が国産業の国際競争力の強化の必要性(ライフサイエンス、ナノテクノロジー、IT等)」という限定づけがなされていました。基礎科学や人文社会系の学問領域は、あらかじめ排除されているのです。
しかし「IT」(情報技術)が最も「国際競争力」を発揮している領域は、今回のイラク攻撃ではっきりしたように、ロッキード・マーティンや、ゼネラル・ダイナミックス、レイセオンなどの軍需産業です。「IT革命」の実体は、冷戦時代にばく大な国費をつぎ込んで研究した、軍事技術の民間開放です。同時に「IT革命」はアメリカ一国が世界を支配する「軍事革命」でもあったのです。軍需関係にかかわる技術の研究をしている学部と、人文社会系学部とでは、アメリカの大学の場合、予算の額は数けた違うのです。
四月二十一日に出された「総合科学技術会議」の「競争的研究資金制度改革について(意見)」では、「国立大学の法人への移行後」、「競争的研究資金における研究者本人の人件費の計上及び給与への反映」をしようとしています。「科学的・技術的な観点を中心とした評価に基づいて実施すべき課題を採択」して各省庁の資金が分配されるのが「競争的研究資金」です。国策にあった研究を申告しなければ、研究費も給与も出なくなるのです。
そして、この「競争的研究資金」の「獲得」が「研究者の実績」とされるわけです。短期間で、どれだけ国家と産業界に利益をもたらすことができるか、これだけで研究の在り方が決められる場は、学問を殺すだけです。
こもり よういち・東京大学教授=一九五三年生まれ。専門は日本近代文学。『日本語の近代』『研究する意味』ほか。