2003年6月6日(金)「しんぶん赤旗」
労働基準法改悪案は、「解雇権」を明示した条文を削除し、五日の衆院本会議で賛成多数で可決されました。
「使用者は労働者を解雇できる」とした政府案は、最低限度の労働条件を定めて労働者保護をはかるという労働基準法の性格を“解雇自由化法”に変えてしまい、裁判での立証責任を労働者側に重くするものでした。
この条文が削除されたのは、「解雇の自由化を許すな」という労働・法曹界の一致した要求と運動、国会での野党四党による追及の成果です。
審議では、解雇権の削除を求める質問に、坂口力厚労相が「私も逆にならないかといったぐらいだ」と同調するなど法案の欠陥を認めざるを得なくなり、根幹条文を削除するという異例の事態に追い込まれました。
最高裁判例で確立した基準にそって、労基法に初めて「解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、権利の乱用として無効とする」との規定が設けられることは、不当解雇から雇用を守るうえで大きな意義をもっています。
一方で、パートや契約社員などの「有期雇用」を使いやすくし、際限のない労働を強いる「裁量労働」を拡大する危険性は変わっていません。
有期雇用の契約期間は一年から三年に、専門的知識を有する労働者と六十歳以上の労働者は三年を五年に延長します。
現在は、パートでも契約更新を繰り返していれば、正社員と同じとみなされ一方的な解雇はできませんが、期間延長によって、一、二回の契約更新で“合法的”に解雇できるようになります。
製造現場への派遣を解禁する労働者派遣法の改悪とあいまって、正社員をパートなどに置き換える動きが加速することは必至です。
審議では、「常用労働の代替がすすむのを防げるのか」との質問に、鴨下一郎副厚労相は「企業の人材戦略によって定まる」と答弁。企業まかせで何の歯止めもないことがはっきりしました。
「契約期間は合理的理由がない限り自動更新させるべき」との質問にも「当事者の合意だから一概にいえない」(松崎朗労働基準局長)と拒否。
正社員との均等待遇はじめ、有期雇用労働者の願いにこたえるものでないことも明りょうになりました。
一方、契約期間の延長によって、労働者が途中退職した場合、経営者から「契約不履行」で損害賠償を求められる恐れが指摘されていましたが、「契約一年後からいつでも退職できる」との修正が加えられました。期間延長にともなう弊害を除去するうえでは賛同できるものです。
いくら働いても決めた時間しか働いたとみなさない「裁量労働制」は、本社以外にも広げられ、ホワイトカラーのほとんどに適用可能となります。
裁量労働の労働時間などを決める労使委員会を全員の合意から五分の四の多数に引き下げるなど導入手続きを簡素化し、労基署への届け出事項も大幅に削減します。
サービス残業を合法化するだけでなく、際限のない長時間労働を押しつけ、過労死を増加させることになるものです。
日本共産党の小沢和秋議員が「労働時間の自己申告制をやめさせ、客観的方法で把握させるべきだ」と求めました。
松崎局長は「使用者に実労働時間を管理させることは、制度の趣旨をないがしろにするもの」とのべ、企業まかせで指導もしない考えを示しました。
ホワイトカラー労働者全体を労働時間規制の適用除外にしていく危険性が浮き彫りになりました。裁量労働制は限定的なものにとどめ、厳しく規制することこそ必要です。
衆院での審議を踏まえて参院では徹底審議を尽くし、抜本修正することが求められています。
(深山直人記者)