2003年6月5日(木)「しんぶん赤旗」
三日の参院有事法制特別委員会の参考人質疑で石埼学・亜細亜大学法学部助教授が行った陳述要旨を紹介します。
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有事法制の議論をする以前に、果たしていまの政治が立憲政治の枠内に収まっているのかという問題があります。
テロ特措法にもとづいてインド洋に派遣された自衛艦が、イラク戦争に参加した艦船に給油しています。自衛隊は何の法的根拠もなく、勝手に行動したのです。この自衛隊を抑止しえない政府・国会が果たして、武力攻撃事態が起こったときに法律や憲法を守って行動できるのでしょうか。
また、小泉首相は当委員会で「自衛隊は軍隊だ」と発言しました。政府はこれまで、自衛隊を軍隊と呼ばず、自衛権行使のための必要最小限度の「実力」としてきました。首相が過去の政府答弁を踏まえた上で「軍隊」といったのなら、それは今までの安全保障政策の転換を意味します。そのことを踏まえて、有事法制の論議を進めるべきです。
有事法案は国民の安全のためとされています。国家には国民の自由や安全、財産を守る責務がありますが、一方、国家は憲法や法律を無視して、国民の権利を侵害しうる危険な存在だという議論がなされていません。
いま、私たちは日本国憲法の危機、立憲政治の危機に向き合っています。与党議員がのぞむ「普通の国家」としての立憲政治がいま、危機にさらされているのです。
有事というリスクを回避するためにどうするか。政府は周辺事態法をつくり、周辺事態に介入する米軍の後方支援をやるという政策を取っています。テロ特措法にも違反した自衛隊もいまだにインド洋に派遣されています。この自衛隊を撤収するだけで、かなりのリスクが減るでしょう。
リスクを大きくする安保政策をとりながら、リスクに備えるための有事法制が必要だというのは本末転倒で、危険運転をしながら高い保険に入るようなものです。
有事三法案の成立後に整備される「国民保護法制」にも、私は強い危ぐを持っています。平時から日本社会を戦争モードに変えていく危険が非常に大きいからです。
たとえば、災害訓練を指揮するのは消防署や警察署ですが、武力攻撃事態に備えた訓練であれば、自衛官が指揮、参加することで日常生活が戦争モードに入る危険があります。
私は一九六八年生まれで、日本国憲法のもとで生まれ育ち、自分とは異なる考えの人々を受け入れ、平和的な環境をはぐくみながら生活してきたつもりです。しかし戦争モードになった社会で、ついていけない人たちは置いていくような社会になることを危ぐします。
私個人は、有事関連三法案が成立しても、一人の憲法学者として一人の人間として、一切、協力するつもりはありません。