2003年6月4日(水)「しんぶん赤旗」
三日の衆院厚生労働委員会の参考人質疑で、全国労働組合総連合副議長の生熊茂実さん(全日本金属情報機器労働組合中央執行委員長)、静岡大学人文学部法学科教授の川口美貴さんがおこなった労働基準法改悪案についての陳述(要旨)は次のとおりです。
労働者保護法としての労基法に「使用者は、労働者を解雇できる」と定めることは、労基法の性格そのものを決定的に変えるものです。労基法第二条で「労働条件の労使対等決定の原則」がうたわれていますが、改正法案は労使対等の関係を崩壊させるものであり、労基法の趣旨に反します。
契約期間の上限延長で「三年有期雇用」が合法化されようとしています。現行の一年では常用労働を全面的に置きかえるのは困難ですが、三年になれば、経営者が労働者を「見極める」うえで十分な期間となり、三年で「役に立たない」と見たら、無条件で「雇い止め」できるようになります。「若年定年制」あるいは、「試用期間の三年への延長」ともいうべきであり、日本の労働者の多くが不安定雇用となる劇的な変化となります。
「改正」法案提出にあたり、「労働者のニーズ(要望)」「働き方の多様化」がいわれていますが、労働者の多数が願っているのは、「安定した雇用」です。五月三十日に内閣府が発表した「国民生活白書」では、四百十七万人のフリーターのうち、「正社員になりたい」が72・2%、「もともとパート、アルバイト、派遣を希望」は14・9%です。
契約期間が三年に延びても「上限」であり、会社の都合でどうにもできます。三年雇うなら、「期間の定めのない雇用」にすべきです。
裁量労働の要件緩和は、「不払い労働」「ただ働き」の合法化になります。私たちは、「不払い労働」をなくすために努力してきました。厚生労働省も五月二十三日付で「賃金不払い残業の解消をはかる指針」を出しました。「改正」法案は、この努力を無にするものです。「改正」法案は、事務系業務の大半を裁量労働に位置付けています。残業という概念をなくして「不払い残業」をなくそうといえるもので実際には長時間・ただ働き労働を野放しにするものです。
解雇ルール、有期雇用の三年への上限延長、裁量労働制の要件緩和について抜本修正が行われなければ、「改正」法案は廃案にすべきであると考えます。
私は、静岡労働局の紛争調整委員会の委員と静岡県地方労働委員会の公益委員をしています。中小企業の使用者は判例法理を知らない場合も多く、解雇予告さえすれば解雇できると考えて解雇し、紛争の原因となっている場合もみられます。
したがって、解雇の規定を法律上明文化することは重要です。第一は、解雇には正当事由が必要であることです。第二は、解雇の正当事由の証明責任は使用者が負担することを、法律規定として明文化することです。解雇に正当事由がないことの証明責任を、解雇に関する資料や情報を有していない労働者に負担させるのは公平ではないからです。
期間の定めのある労働契約(有期雇用)は、雇用が不安定で退職の自由が制限され、労働者にとってメリットのない雇用形態です。
第一の課題は、期間の定めのない労働契約を原則とし、定めのある労働契約は、派遣労働契約とともに、例外的で限定されるべき雇用形態として位置付けることです。(1)休業中の労働者の業務の補充(2)一時的な業務の増大への対応(3)業務の性質上一時的な労働等、一時的に労働力が必要な場合に限定すること−が必要です。契約期間は上限一年、契約更新は一回限り一年とすべきです。「改正」案は有期雇用の限定がされず期間の延長により有期雇用の拡大につながるおそれがあります。
第二の課題は、均等待遇です。有期雇用の労働者の労働条件について、同種の期間の定めのない労働者との差別的取り扱いを禁止すべきであると考えます。
裁量労働制ですが、第一の課題は、対象労働者を合理的な範囲に限定することです。成果主義賃金と実労働時間規制は矛盾しません。(1)その適用対象労働者を少なくとも現行の範囲以上に拡大しないこと(2)企画業務型・専門業務型ともに裁量労働制を適用する時点での労働者の同意を適用の要件とし、かつ一定の予告期間をおけばいつでも適用を拒否できること−を明記すべきです。
第二に、裁量労働制においても、業務の内容・量・期限は使用者により決定されるため、労働者の健康と自由時間保障のために、実労働時間規制に代わる法令上の規制が必要です。健康管理の強化・苦情処理制度等のほかに、休息時間を規制し、一日の実労働時間が長時間に及ぶことを回避すること、一日の実労働時間数の代わりに実労働日数を規制することを提言します。