2003年6月4日(水)「しんぶん赤旗」
使用者による労働者の解雇権などを盛りこんだ労働基準法改悪案は、野党四党の一致点にもとづいて修正協議にあたってきた民主党と与党が、解雇権を明示した部分を削除することなどで合意し、四日の衆院厚生労働委員会で採決にかけられ可決される見通しとなりました。政府案の根幹条文が削除されることになり、労組や国民の運動と結んで改悪案を追及してきた野党四党の共同による成果です。
政府案では「使用者は労働者を解雇できる。ただし、合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は無効」とし、労働者保護が目的の労基法に解雇権を初めて明示しました。
野党側は「解雇が原則自由となり、合理的な理由なしに解雇できないとするルールが覆される」と批判。解雇権規定を削除し、最高裁判例で確立したルールを条文化するよう求めていました。
修正案は、「解雇できる」との部分を削除し、「解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を乱用したものとして、無効とする」との表現に修正、現在のルールをそのまま条文化しました。
また、契約社員など有期労働契約の上限を一年から三年に延長することについては政府案通りとしたものの、三年契約が「人身拘束」とならないよう、契約一年後から「いつでも退職できる」とする条文を新たに加えることになりました。
一方、労使で決めた時間だけを労働時間とみなす「裁量労働制」の対象労働者を拡大することなどについては、野党四党で一致しなかったため修正協議にはならず政府案のままとなっています。
衆院厚生労働委員会は三日、労働基準法改悪案の参考人質疑を行いました。使用者による解雇権の明記などをめぐり、五人の参考人のうち経営者代表を除く四人が法案への危ぐを表明し、修正を求めました。
静岡大学人文学部法学科教授の川口美貴さんは、期間延長が狙われている有期雇用について、「雇用が不安定で退職の自由が制限され、労働者にとってメリットのない雇用形態」だと指摘。常用雇用を原則とし、有期雇用と派遣労働は例外とすることと強調しました。
全労連の生熊茂実副議長(全日本金属情報機器労働組合中央執行委員長)は、裁量労働制の導入要件緩和は、「不払い労働」を合法化し、厚労省の「賃金不払い残業の解消をはかる指針」も無にするものだとして、抜本修正を求めました。
北海学園大学法学部教授の小宮文人さんは、欧米では解雇規定があるが日本にはなく、判例上のルールを築いてきたことを紹介。政府案は、このルールをくずしかねないと懸念を表明しました。
有期雇用労働者権利ネットワークの高須裕彦事務局長は、契約期間中は退職の自由もなく、契約期間が切れればいつでもクビきりの危険にさらされている有期雇用労働者の実態を告発しました。
日本共産党の山口富男議員が質問。「改悪は、日本社会にとってどういう問題をもたらすか」との問いに、生熊氏は、「少子化対策が話し合われているが、不安定雇用の拡大では将来不安が増大し、安心して子育てできる社会にはつながらない」などと答えました。
衆院厚生労働委員会は三日の理事懇談会で、労働基準法改悪案と修正案の採決を四日におこなうことを決めました。
与党側は、民主党との修正合意を受けて、四日の委員会で採決したいと提案しました。
日本共産党の小沢和秋議員は、修正案の中身については賛成できるとしたうえで、「政府案の問題点が次々と明らかになっており、審議を尽くしたとはいえない」として、採決することには反対だとのべました。
ほかの委員から採決反対の意見は出ず、委員長が採決することにしたいとのべました。