2003年6月3日(火)「しんぶん赤旗」
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日本経団連(会長・奥田碩トヨタ自動車会長)が、中止していた政治献金のあっせんを来年から再開しようとしています。いまなぜ再開なのでしょうか。(渡辺健記者)
まずは、財界の事情に詳しい経済ジャーナリストに聞いてみました。
「財界幹部は、力が落ちたことにいら立っている。かつては、経団連の事務総長が自民党本部に電話すると、自民党幹事長が飛んできた。いまでは、考えられない」
かつてとは、経団連事務総長、副会長を歴任した花村仁八郎氏がつくった「花村リスト」にもとづいて、企業に献金額を割り振っていた時代。田中角栄が自民党幹事長だったとき、パーティーなどで、真っ先に花村氏にあいさつにいったのを目撃したといいます。
一九九三年に経団連は、献金あっせんを中止します。リクルート事件、佐川急便事件など「政治とカネ」への世論の批判が沸騰していました。
奥田氏は、旧経団連と旧日経連を統合して日本経団連を発足(昨年五月)させるに当たり、「影響力を発揮するにはどうしたらいいか」を事務方に検討させ、各方面の意見を聞かせました。その結論が「やっぱりカネだ」ということになったといいます。
ここは、当事者に聞くしかないと、東京都千代田区大手町の経団連会館を訪ねました。
「そりゃ、政治への影響力を強めたいからに決まっているでしょ。何も期待しないで金を出すバカはいません」
日本経団連事務局幹部の答えは明快です。
ところで、そんなに財界の影響力って落ちたんですか。
「この間も経団連の政策の実現という点では、ほとんど実現している。力が落ちたとは感じられないが」
たしかに、小渕内閣時代の産業競争力会議や小泉内閣の経済財政諮問会議で経団連が提言した要求はほぼ実現したか、政府の検討課題にのぼっています。
「ただ、与党との関係がね。まあ、いまの与党三党体制がいいとも思えない。政界再編が…」
政界再編のための献 金あっせん再開という ことなのですか。
「仕掛けようとは思ってはいないが」
政党を評価する政策は、「奥田ビジョン」(一月一日発表)にそっているかどうかということになりますよね。
「大きいのは社会保障財源をどうするか。二〇一四年度に消費税を16%にと提言しているが、〇七年度までには10%に引き上げておかないと」「(『奥田ビジョン』にそって)毎年、政党の通信簿をつけましょうということになる」
うーん、消費税増税は容易ではないと考えているのだろうか。消費税が導入(一九八九年四月)されたときは、どうだったんだろうか。
政治資金収支報告書をみると、消費税国会があった八八年、企業献金の受け皿である国民政治協会から自民党への献金額は、前年から35%も増えて百二十五億円。
いまは、自民党への企業献金は三十億円程度。新方式にすれば、企業側も献金しやすくなると日本経団連事務局幹部はいうのですが。
専門家の意見を聞いてみました。
「新方式でむしろワイロ性は高くなる」というのは、株主オンブズマン代表の森岡孝二・関西大学教授です。
「企業というのは利益を得るための営利団体ですからね。会社の利益にならない無駄な支出をしたとしたら、経営責任が問われるわけですよ」
なるほど。じゃあ、 会社の利益になる献金 だということになった ら。
「見返りを求めた献金ということ。これは贈収賄ですよ」
日本経団連は、政党 の政策や実績を評価し て、献金を決めます。
「財界の要望にそった政策の実現のためにがんばってくれる政党に献金するということ。露骨に見返りを期待した政治買収ですよ。『これはワイロですよ』と宣言しているようなもの」
政治献金は政治参加そのものであり、憲法で保障された国民の参政権の行使です。国民主権の憲法のもと、選挙権もない企業には参政権は認められていません。「企業は社会的存在だから」と企業献金を合理化することはできません。
企業献金を禁止するかどうかは、憲法の国民主権の原則の基本にかかわる問題です。
福井地方裁判所は今年二月十二日の熊谷組株主代表訴訟事件の判決のなかで、経済力をもつ会社や産業団体の政治献金が政党に及ぼす影響力は、個々の国民の政治献金よりはるかに甚大であり、「国民の有する選挙権ないし参政権を実質的に侵害する恐れがあることは否定できない」との判断を下しています。