2003年6月3日(火)「しんぶん赤旗」
政府・与党は、使用者の解雇権などを盛り込んだ労働基準法改悪案を十分な審議もなく、衆院厚生労働委員会で四日にも採決をねらっています。短い審議を通じても政府案の欠陥が明らかになっており、徹底審議こそ求められます。
法案は、「使用者は労働者を解雇できる」との規定を新たに盛り込みました。ただし書きで「客観的かつ合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫(らん)用したとして無効」としています。
「“解雇は原則自由”になりかねない」との野党側の追及にたいし、坂口力厚労相は「法律上の表現の問題」「私も逆にならないのかといったぐらいだ」などと言い訳に終始。五月三十日にも、「合理的な理由なしに解雇できない」と定める民主党の修正案(日本共産党も賛同)について「表現は異なるが目指している方向性は同じ」と答弁しました。
それでも「解雇制限的な考え方は関係者のコンセンサス(同意)が得られない」(松崎朗労働基準局長)と、使用者側の立場を優先する考えを固持。政府案の欠陥ぶりは明りょうです。
答弁修正に追い込まれる事態も出ています。
「(解雇が合理的かどうか)判断がつかずグレーのときは、どちらが裁判に勝つのか」との野党側の質問に、松崎局長は「労働者側が負ける」と答弁。グレーなら立証責任のある使用者側が敗訴するケースが多かったのが、法案によって覆ることを認めました。
ところが五月三十日の委員会で松崎氏は「一般民事事件を念頭に答弁してしまった」とのべ、「裁判実務は変わらない」と答弁を修正しました。
法案が「解雇事由」を就業規則に明示させる問題点も浮上しました。
日本共産党の小沢和秋議員は、NTTの懲戒事項の「会社施設内において、許可なく演説、集会、貼(はり)紙、掲示、ビラの配布その他これに類する行為をしたとき」という項目を示し、「労働者を簡単に解雇できる武器を与えかねない」と批判しました。
「就業規則にない事由による解雇は無効になるか」との野党議員の質問に松崎朗労働基準局長は「一概には言えない」と答弁。解雇権乱用に何の歯止めもない欠陥も浮かびあがりました。これでは、解雇は「ノンルール」(日本共産党・山口富男議員)です。
裁量労働制(企画型)の対象も拡大し、導入要件を緩和します。
裁量労働制は、実際に働いた時間とは関係なく労使で決めた時間だけを「働いたものとみなす」制度です。長時間・過密労働を招くとしてさまざまな「歯止め」が設けられてきました。
法案は、本社機能を持つ事業場に限定する規定もなくし、労基署への定期報告も項目を大幅削減するなど「歯止め」を軒なみ緩和します。
山口氏は「制度の基本理念を覆すものだ」と追及しました。松崎局長は「定期報告にもとづきチェックする。中身は労使委員会でチェックする」と答弁。「チェックといっても労使委員会の開催状況も定期報告から削除したではないか」と山口氏から指摘されると答えることができず、「裁量労働者を労働監督行政の視野の外におきかねない」(山口氏)問題が明らかになりました。
法案では、パート労働者などの「有期雇用」の上限を、現行一年から三年に延長します。
これが雇用増大につながるのかとの質問に鴨下一郎厚労副大臣は、「(契約打ちきりは)企業の人材戦略によって定まるもの」と使用者の都合で打ち切れることを認め、雇用増大につながらないことを認めました。
与党側は、委員会で実質審議が始まった五月二十三日から採決日程を持ち出し、「四日に採決を希望する」などと表明しています。これだけ法案の問題が明らかになっているのに、採決だけを急ぐことは許されません。