2003年6月2日(月)「しんぶん赤旗」
公立の病院、保育所、図書館、大学から上下水道にいたるまで地方自治体の公的部門を「独立行政法人」にできる地方独立行政法人法案が国会に提出されています。住民生活にとってどんな問題があるのでしょうか。
独立法人化する部門について法案では、「自治体が主体となって直接に実施する必要のないもののうち、民間にゆだねた場合には実施されないおそれがあるもの」としています。
公立大学や病院、保育所や特別養護老人ホームなどの福祉施設から地下鉄・バス、上下水道などの公営企業まで、自治体が直接、住民に提供していた公的サービスのほとんどが含まれます。対象に含まれないのは県庁や市役所の事務、河川や道路の管理、小中高の学校ぐらいです。
独立行政法人は、自治体が50%以上を出資し、自治体の議会で定款を定め、知事や総務大臣の認可を得て設置します。
独立行政法人化した公共施設や事業には「企業会計原則」が導入され、中期計画と年度計画をたて、その達成を迫られることになります。
この制度をつくる目的について政府・総務省は「効率的な行政サービスの提供等を実現するため」(地方独立行政法人制度の導入に関する研究会報告書)と認めているとおり、「効率化」の名で独立採算制を押し付けることがねらいです。
自治体は、営利を目的とする民間企業とは違って住民福祉の増進を図ることが基本的任務です。
採算が取れないからと放棄するわけにはいかない部門ばかりです。それが採算性の追求を迫られれば、住民の負担を増やすか、事業の廃止を含むサービスの縮小・削減をはかることになり、住民が犠牲を払うことになりかねません。
自治体が住民生活に欠かせない事業への責任を投げ捨ててしまうことを可能にする制度であり、住民に重大な影響を与える危険な法案です。
独立行政法人は、役員人事から年度計画にいたるまで知事や市町村長が意のままの運営ができるようになっています。
一方で、地方議会の関与は著しく限定され、予算や決算をチェックすることもできません。
情報公開は年度計画の公表など限定的で、住民参加や監視はほとんどできなくなります。
前出の「報告書」は、「地方公共団体の議会による詳細な事前関与が行われることとした場合には、そもそも地方独立行政法人制度を導入する意義がなくなる」と述べており、住民参加・住民自治を基本とする「地方自治の本旨」をゆがめかねないものです。
独立行政法人は「公務員型」と「非公務員型」のいずれかを選択することになっていますが、非公務員型となれば民間労働者扱いとなり、強制的に公務員としての身分が奪われます。
国の場合、独立法人化によって労働条件の改悪がおこなわれた事例があります。地方でもこうしたことがおきないという保障はありません。
公務員労働者には、住民の福祉と安全を守る奉仕者として中立性や公正さを守る必要性があることから、重い義務を課してきました。その権利や労働条件を切り下げることで、住民生活への影響も危ぐされます。
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法案は三日に衆院総務委員会で約五時間の審議だけで参院に送られようとしています。日本共産党は、この法案の危険性を広く国民に知らせ、廃案めざして運動を広げようと呼びかけています。