日本共産党

2003年5月31日(土)「しんぶん赤旗」

有事法案 地方公聴会の発言から


 参院有事法制特別委員会は二十九日、神奈川県横須賀市と福井市でそれぞれ、地方公聴会を開きました。公述人のなかから、呉東正彦弁護士(横須賀市)、塚田哲之・福井大助教授(福井市、憲法学)の発言要旨を紹介します。


生命の危険にさらされるのは基地の町・横須賀の労働者

呉東正彦弁護士

 私は法律家として、基地の町・横須賀に暮らす一市民として、有事三法案が持つ根本的な欠陥、危険性を三点にわたって指摘します。

 有事法制の開始要件である「武力攻撃事態」「武力攻撃予測事態」の概念はきわめてあいまいで、乱用を招く危険性が強く存在します。

 米国の先制攻撃やその予告によって緊張が高まった事態にも適用され、日本が米国の動きに巻き込まれて有事体制となり、自衛隊が主体的に戦闘行為に参加したり、日本国全体が有事統制状態となるおそれは、今日の情勢のもときわめて高い。

 四月二十四日の、衆議院での石破防衛庁長官の答弁もそれを否定していません。これは憲法の定める平和主義の原理、憲法九条の戦争放棄、戦力、交戦権、集団的自衛権の否認に明らかに違反するもので、単なる法律によってなしうるものではありません。

 罰則等の強制力をもってする自衛隊の防衛出動時等の、「施設の管理」「土地・家屋の使用」「取扱物資の保管命令」「物資の収用」「業務従事命令」などは、国民の基本的人権を大きく制限するものです。

 市民の財産、経済活動、労働に対して広範かつ強制的な統制が加わることは、基地のある私たちの町の市民生活、経済活動、ここで働く多くの人たちの生命に深刻かつ重大な影響を与えることはまちがいありません。

 一昨年のテロ事件直後に、米海軍横須賀基地が入り口の検査を厳重にしただけで大渋滞が発生し、市民生活・経済活動に深刻な影響が発生しました。さらに、有事の際、真っ先に業務従事命令が出され、生命の危険にさらされるのは基地の町・横須賀の労働者です。

 有事法制では、国が決定した「対処措置」の実施を強制的に指示し、地方自治体が行う措置を直接実施する権限を規定しようとしています。このことは、憲法の定める地方自治の本旨に違反し、国と地方自治体の関係を根本的に変質させるおそれがあります。

 基地を多数抱える神奈川県では、市民団体に対してほとんどの自治体が、政府の説明が不十分で、自治体の意見を聞くべきだと回答しています。

 今回の有事三法案は、国民生活や国の統治機構のあり方に、憲法改悪に匹敵する重大な変化・変質をもたらす法案です。

 良識の府・参議院で、この法案の危険性を明らかにした上で、廃案にしてください。


人権保障、議会制民主主義、地方自治に深刻な影響

塚田哲之福井大助教授

 四党合意でおこなわれた修正に関する点を中心に三つを申し上げたい。

 政府原案の「武力攻撃事態」という文言が、「武力攻撃事態」と「武力攻撃予測事態」に分かれました。しかし、昨年五月十六日の政府統一見解に現れた文言をそのまま利用しています。したがって内容の変更はないと考えます。また「予測事態」という文言が残された結果、「予測事態」と「周辺事態」の併存とよばれる問題も依然残されていると考えます。

 たとえば周辺事態法にもとづいて米軍を支援する活動をおこなっている自衛隊に対する武力攻撃が予測されたら、自治体、事業者、国民を動員する「事態対処システム」が発動されるという法案の基本構造には、全く変更がないと考えます。

 第二に、国会の関与に関する問題です。防衛出動以外の場合、国会関与は事後だけになるかと思います。対処措置を終了すべきことを国会が議決した場合には、内閣総理大臣が対処基本方針の対処の廃止について、閣議決定を求めるという定め方をしています。国会の議決があれば自動的に対処措置が終了するというわけではない。この点でも国会の関与は間接的にとどまると考えています。

 こうした国会関与の脆弱(ぜいじゃく)性は、対処基本方針に記載されるべき事項の不明確さにより、増幅されると思います。法案は「対処措置に関する重要事項」を定め、それを受けて、自衛隊の活動にかかわる規定(予備自衛官への招集命令など)をおいています。しかし、それ以外の重要事項の内容は明らかになっていません。これに対し国会が実効的な統制がおこないうるかという点については、強い疑問をもっています。

 第三に、基本的人権の尊重についてです。「予測事態」における人権制約の可能性は、修正合意においても一般的に承認されている格好になっています。

 政府は「公共の福祉」による制限という説明をしています。そもそも一切の軍事的機関を否定した憲法九条のもとで、軍事的公共性が承認されるのか自体、極めて疑問ですが、それをおくとしても、「公共の福祉」による人権制約の可能性を一般的に承認すること自体、人権侵害を排除していく抜本的な努力を積み重ねてきた憲法学の成果に、あまりに配慮が欠けているのではないか。

 以上のように、修正された点を含めても、平和主義のみならず、人権保障、議会制民主主義、地方自治の保障にきわめて深刻な影響を与える本法案の問題は解消されていないと考えます。


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