日本共産党

2003年5月29日(木)「しんぶん赤旗」

労基法改悪案の欠陥はっきり

解雇も 有期雇用も 裁量労働も

使用者やりたい放題に


 労働者保護が目的の労働基準法に、使用者による「解雇権」を明記する労働基準法改悪案が、衆院厚生労働委員会で審議されています。五千三百万人の労働者とその家族に重大な影響を与える法案の問題点は――。(深山直人記者)

ルール覆される

 改悪案では「使用者は労働者を解雇できる」としたあと、「ただし、客観的に合理的な理由を欠く場合、権利の乱用として無効」としています。

 野党側は、これでは「解雇できる」が原則となり、「解雇は正当な理由が必要だ」というルールが覆されることになると指摘しました。

 「おっしゃる意味はわかる。私も上下が逆にならないのかといったぐらいだ」

 日本共産党の山口富男議員の質問に、坂口力厚労相はこう答えました。

 坂口氏は「法律上の表現の問題」だといい訳しましたが、「ただし」に続く後半部分を「前半に持ってこれないのか」などといわざるをえないこと自体、法案の根幹部分に欠陥があることを示すものです。

 山口議員は、労基法に盛りこむべきことは「使用者は正当な事由がない限り解雇してはならない」という解雇権行使の制限だと主張しました。

重大な変更判明

 政府は、解雇自由の条文は、裁判で確立している解雇ルールをそのまま条文にしただけで「プラスもマイナスもしない」(坂口厚労相)と説明しました。しかし、重大な変更をもたらすことが判明しました。

 労基法改定によって、各企業は就業規則に「解雇事由」を明示しなければならなくなります。

 これについて野党側は「就業規則にない事由による解雇は無効になるのか」と質問しました。

 厚労省の松崎朗労働基準局長は「例示的な場合もあるので一概にいえない」とのべ、就業規則にない理由でも解雇できることを認めました。

 使用者が決める就業規則で解雇できることも大問題ですが、それに規定がなくても解雇ができるなら、「ノンルール(無法)」(山口議員)となり使用者のやりたい放題になってしまいます。

 さらに、解雇をめぐる裁判になった場合も重大な変更が――

 これまで裁判では、解雇が正当であることを証明する責任を使用者に負わせることが定着していますが、今回の改悪によって、証明する責任が使用者でなく、労働者側にあると変更される恐れが指摘されています。

 野党側が「立証責任は変わらないのか」と質問したのに対し、松崎局長は「実務上は変わらない」としつつも、「法律上は労働者側に立証責任がある」と強調しました。

 使用者に比べて経営情報も圧倒的に少ない労働者が立証責任を負わされるのなら、裁判による救済がきわめて困難になることは明らかです。

パートへの影響

 パート労働者などについて改悪案は、現在、原則一年となっている雇用契約期間の上限を、三年まで延長できることを盛りこんでいます。

 現在、パート労働者でも契約更新を繰り返していれば、正社員と同じく「期限の定めのない雇用」とみなされ、一方的な解雇はできません。

 ところが今回の改悪によって、三年または六年での「雇い止め」(解雇)が可能になり、事実上の「若年定年制」になると指摘されています。

 野党側が「若年定年制にならない保障があるのか」と質問したのにたいし、鴨下一郎副大臣は「企業の人材戦略によって定まるもの」とのべ、企業まかせで何の歯止めもないことを認めました。

裁量労働を拡大

 いくら働いても決めた時間しか働いたと認めない「裁量労働制」(企画型)について改悪案では、対象となる業務を拡大し、導入する手続きも簡素化します。

 これによって、ホワイトカラー労働者のほとんどに適用可能になり、「サービス残業」をいっそう深刻にすることが危ぐされています。

 ところが、緩和するという企画型の裁量労働制について、現在決められているルールすら守られておらず、それを厚労省が放置していた実態が浮かび上がりました。

 山口議員は、厚労省調査で、企画型裁量労働制の労働時間について電子カードなどできちんと把握してるのは11・1%だけで、70%と大部分が労働者の自己申告制をとっていることを示し、過重労働防止のために出退勤時間の把握などを使用者に課した「大臣告示」に反すると追及しました。

 松崎局長は「使用者が現認できない場合には(自己申告制を)認めている」とのべ、監督機関としての責務を果たしていない実態が浮かび上がりました。

 山口氏は「裁量労働制はあくまで限定的なものにとどめ、無限定に拡大しない措置こそ、いまとるべきだ」と強調しました。


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