日本共産党

2003年5月23日(金)「しんぶん赤旗」

大学統制を強化

国立大法人法案


 国立大学を法人化する法案は22日衆院を通過し、参院での審議が23日からはじまります。衆院ではその危険さがつぎつぎあきらかになり、反対の声が国会内外で広がっています。


崩れた政府説明 明かされた危険性

大学目標 → 大臣が決定

写真

国立大学法人法案に反対する大学関係者の国会行動=7日、衆院議員面会所前

 この間の国会論争で、「大学の自主性を高める」とのこれまでの文科省の説明は破たんし、“大学統制強化法”ともいうべき法案の本質が浮き彫りになっています。

 法案では、各大学の六年間の目標を文科相が定めることになっています。この点に「学問の自由を脅かす」と各党からの批判が集中しました。

 日本共産党の石井郁子衆院議員は「大学の目標を大臣が定める必要があるのか。教育研究への介入ではないか」と質問。遠山敦子文科相は「国が予算を措置する上で最小限の関与は必要になる」と答弁しましたが、石井議員は「国立大学への予算措置は現行でもやっていること、理由にならない」と指摘。遠山文科相は「あらかじめ大学の意見を聞いて配慮する」と答えるのみで、説明不能に陥りました。「配慮」では、大学の意見に拘束されないと、文科省自ら説明しています。

 目標に基づき各大学が作成し文科相の認可を受ける計画について、石井議員の質問に答えて、河村建夫文科副大臣は「変更命令に大学が従わない場合は過料に科」と言明。大学統制強化の本質をあらわにしました。

業績評価 → 政府しだい

 「研究の評価がいかに難しいか」「軽々しくやると国を滅ぼす」。生命科学を研究する赤池敏宏東京工業大学教授は参考人質疑でこう指摘し、国による学問評価への危ぐを表明しました。

 法案では、目標の達成状況を文科省に置かれる委員会が評価します。しかし、評価を“だれが”“どんな基準で”行うのかは政令に委ねられており、「これから関係省庁と協議する」(高等教育局長)とされています。

 石井議員は「大学の発展にかかわる重大な内容であり、きちんとださないと審議できない」と強く資料提出を求めましたが、いまだ資料は提出されていません。

 文科相は、評価に基づき「所要の措置」をとるとなっています。「措置」とはなにか、石井議員の追及に総務省は「廃止・民営化を含めて見直しを行う」と述べました。

 教育研究の業績が政府のさじ加減で評価され、場合によっては大学はつぶされることになりかねません。

借金1兆円 → 学費上げも

国立大学特別会計の借入金
 (単位:億円)
大学名債務額
東京941
東京医科歯科739
大阪728
九州620
京都580
東北560
北海道542
名古屋519
岐阜465
信州433
(33大学は略)
43大学の合計12,637
文科省資料から作成。同省が2002年度末現在の決算見込み額から計上(利子を含む)。実際に承継する金額は2003年度末のもの。

 国立大学は法人化と同時に、合計一兆三千億円近くの借金を抱え込む可能性も明らかになりました。「一兆三千億円の債務を大学に押しつけて、学費を上げないと断言するか」との石井議員の追及に、文科省は学費値上げの可能性を否定しませんでした。

 政府は、国立大学の付属病院整備のため財投資金から借り入れし、毎年、償還しています。法案では、この借入金を各大学が付属病院の収入から償還する義務を負います。文科省は十二日、日本共産党の児玉健次衆院議員の要求に応じて、各大学の借入残高を提出しました(別表)。それによれば、二〇〇二年度末の国立大学の借入金残高合計は一兆二千六百億円にもなります。さらに、二〇〇一年度決算で東京大学で八十億円、九州大学で四十四億円の単年度「赤字」となっていることが明らかになりました。

 石井議員は「国が責任をもたずに各大学がどのように償還できるのか」と質問。文科省は「各法人が病院収入を前提に償還計画を立てる」と、各大学の返還義務をのべるものの、国としての具体策を明らかにしません。石井議員は「債務償還のために医学部の学費が上がるのでは」と重ねてただしましたが、「学費の標準額は各学部同一の方向」と答えただけで、学費値上げは否定しませんでした。

安全管理 → 違法状態に

 現在の国立大学が法人になると、新たに適用される諸法令に違反状態となることが審議で明らかになりました。

 文科省の昨年十月の調査で、国立大学など百六十九機関の実験施設のうち百五十六機関で安全管理上の問題をもつことが判明。排ガス処理装置、自家発電装置、避難経路の未確保、緊急用洗浄装置、消火器の不備などです。

 法人化すれば労働安全衛生法が適用されるため、安全管理の不備の多くが違法となり、法人が罰則をうけるという深刻な事態です。国が大学の施設整備を長年怠ってきたためであり、児玉議員は「教職員、院生、学生の安全が法律にもとづいて確保されるかどうかの根本問題」と文科相の責任を追及。遠山文科相は「来年四月の法人化までに適法となるよう努力するからいいじゃないか」と開き直りました。これに対して児玉議員は、そうした無責任な態度では「文科大臣としての資格が問われる」ときびしく批判しました。

 野党各党も大問題にし、「来年四月に違法状態が生じたら法案を凍結せよ」(民主・鳩山由紀夫議員)、「資料が出てから採決をせよ」(自由・佐藤公治議員)などと追及。河村副大臣は「必要な数字(予算額)を今月中に出す」と答えざるをえませんでした。


審議のたびに問題点次々と

 法案は当初、四月中にも成立か、といわれていました。実際には、衆議院本会議で可決し、参議院に送られたのは、五月二十二日と大きくずれこみました。

 審議が始まった四月三日の本会議。共産、民主、自由の三党の代表質問は、「学問の自由、大学の自治を侵しかねない法案」であることを印象付け、その後の委員会審議や参考人質疑でも、法案の重大な問題点が次々と明らかにされていきました。

 毎回の審議には、大学の将来を憂える多くの人が傍聴につめかけました。それらがあわさり、徹底審議を求める力となりました。いまその声はさらに広がっています。

 与党の一員である保守新党の熊谷弘代表の「法律案に審議の光が当たるにつれて、実はなかなかの問題がある。百年に一度の大改革で、百年に一度の大失敗にならないよう」との発言も出ました(五月十三日記者会見)。


消せない矛盾 高まる危ぐ

9教授会が批判の見解

 国立大学法人法案に対してはこれまで九教授会が批判の見解を決議しています。

 千葉大学理学部の見解は、大学の中期目標の設定、中期計画の認可を文科相が行う「法人化」では“規制緩和”になるどころか「逆に“規制強化”になる」と指摘。同大文学部の見解は、法案が「国立大学の設置者を、国ではなく国立大学法人」としたことで「国立大学の経費負担に国は直接には義務を負わない可能性が生じる」とし、学外者を含む選考委員会で学長を選考することについて、「経営優先の観点から選考がなされる」と危ぐを表明しています。鹿児島大学理学部の見解も慎重な審議を求めています。

 また、愛知教育大学では、法案の廃案を求める有志声明を発表。六十二人の教職員が賛同しています。

 ほかにこれまで見解を表明したのは、東京外国語大学の外国語学部と地域文化研究科、一橋大学社会学研究科、東京大学理学系研究科・理学部、山形大学の人文学部と理学部の六教授会です。

マスコミや文化人から

 これまで法人化で、大学の独自性がたかまるなどとしていたマスコミにも、大学人などの反対の声を受けて、法案の問題点を指摘する声が出てきています。

 「熊本日日」は、十一日付社説「強まる文部科学省の統制 学問・文化衰退の懸念も」で、法案について「結果として、旧帝大などの有名大だけが生き残り、地方の国立大は統合や民営化が迫られる事態もあり得る。大学内でも、産業的な価値のある研究が厚遇され、基礎教育や人文系の研究の予算が削られる事態や予算不足から授業料の値上げにつながる心配もある」と懸念を表明しています。「福島民報」も「大改革に懸念 国立大学法人化法案 国の介入や地方大衰退」(十三日付)と報じています。

 「朝日」七日付では元大阪大学事務局長の糟谷正彦氏が「こんどの法案は抜本的に見直すべきだ」と主張。藤原正彦お茶の水女子大学教授も「産経」十日付で「文科省が、高等教育までを台無しにしそうである」と述べています。

 法案に反対する著名な文化人、知識人らのアピールには二十一日現在、四千七百四十八人が賛同しています。


採決許さず 廃案へ運動

 衆議院の委員会審議は二日間の参考人質疑をいれてわずか五日。審議は始まったばかりです。なぜ中期目標や計画を文部大臣が定めなければならないのか、答弁不能のままです。また、国立大学評価委員会がどのような基準や内容で評価するのかもいまだ不明確です。教職員の身分を非公務員とすることや、学長権限の強化とチェック体制についても、本格的にはこれからです。

 しかも、審議の対象となる法案は「国立大学法人法案」だけでなく、五十五の国立高等専門学校を一つの独立行政法人とする「法案」など六つの法案です。法案に責任を持つならば、これら一本一本十分な審議がされなくてはなりません。ところが、国立大学法人法案以外ほとんど審議がされていません。

 参議院文教科学委員会の審議日数は会期末までわずか六日。国会内外が結びついて、法案の問題点を国民の前に明らかにしてたたかえば、政府・与党を追いつめ、採決強行を阻む展望を切り開くことになります。


もどる
「戻る」ボタンが機能しない場合は、ブラウザの機能をご使用ください。

日本共産党ホームへ「しんぶん赤旗」へ


著作権 : 日本共産党中央委員会
151-8586 東京都渋谷区千駄ヶ谷4-26-7 Mail:info@jcp.or.jp