2003年5月22日(木)「しんぶん赤旗」
日本共産党の筆坂秀世政策委員長が二十日の参院有事法制特別委員会でおこなった有事三法案にかんする総括質疑(要旨)はつぎのとおりです。
|
筆坂秀世議員 有事法案は、衆議院において与党と民主党との間で「修正」に合意して本院に送付されてきました。しかし、私は、「修正」によって法案の危険な本質はなにも変わっていないと思います。
最大の問題は、有事法制制定の取り組みを加速させることになった九七年の日米防衛協力指針(新ガイドライン)と、その具体化である「周辺事態法」との関係です。
「周辺事態法」というのは、アメリカがなんらかの軍事行動を起こして初めて発動される法体系になっています。また、「周辺事態」とは地理的概念ではない、つまり理論上は地理的な限定はない。「周辺事態法」にもとづいて自衛隊が公海上、つまり海外に展開することも想定されている。そして、その海外に展開した自衛隊の艦船は、(日本の)領土と同じように、「わが国」とみなすというのが、これまでの政府の説明だったと思いますが、この点は間違いないでしょうか。
石破茂防衛庁長官 「わが国」ということについてですが、それは何でもかんでも海外にある自衛隊が「わが国」だと申し上げているわけではございません。「わが国」にたいする武力攻撃の評価がなされるかなされないか(が問題)ということで、海外にある何が攻撃を受けても、それは「わが国」であるということにはならないというのが、政府の立場です。
筆坂議員 「わが国」になることもあるということです。
しかし、この「周辺事態法」にはいくつかの制約がありました。たとえば、「後方地域支援」をおこなうが、「戦闘地域には行かない」「アメリカの武力行使と一体化しない」「もし危なくなれば回避する」、ありていにいえば「逃げる」という制約です。
では、海外に展開している自衛隊艦船が「武力攻撃事態法」のもとで武力攻撃を受ければどうなるか。これについては、それが「組織的、計画的なものである」ことなど「状況が整った場合には武力攻撃事態と認定することもあり得る」というのが、(福田康夫)官房長官の答弁であります。
したがって、こういう「武力攻撃事態」だという認定になれば、戦闘地域であっても、これは当然のことだと思いますが、米軍を支援するし、自衛権発動の三要件に合致すれば、武力行使もあり得るという解釈でよろしいでしょうか。
石破長官 それは、自衛権行使の三要件に該当するかどうかということです。三要件を満たした場合に限りまして、自衛権の行使としての武力行使があり得るということです。
筆坂議員 あり得るということです。
問題は、「武力攻撃予測事態」のときには、ではどうするのかということです。
石破長官は、衆議院でわが党の木島(日出夫)議員の質問にたいして答えられています。「武力攻撃予測事態」というのは「周辺事態法とはまたおのずから異なった局面である」と。「周辺事態とはおのずから異なった局面」だというのが、あなたがいう「武力攻撃予測事態」だということなのです。そうすると、「周辺事態法」とはおのずから違う対応をすると(いうことになるのではないか)。
つまり、「周辺事態法」がもうけている「戦闘地域には行かない」「武力行使と一体化しない」という制約を、「武力攻撃予測事態」では取り払う。これがあなたの立場だということですか。
石破長官 要するに、別の法律にもとづく別の事態なのです。それが重なる場合もあるでしょう。つまり「周辺事態」のなかでやっていることが「武力攻撃事態」になることは。
筆坂議員 「武力攻撃予測事態」のときには、「周辺事態法」にあるような制約は取っ払うという考えでしょうか。これから対米支援法をつくるでしょう。「周辺事態法」と同じ制約を設けるのですか。
石破長官 それは今後の議論であるとは思いますが、事態が違いますので、「予測事態」と「周辺事態」というのはまったく違う評価がなされる別の法律です。ですから、そういうのを取っ払うとか取っ払わないとか、そういう議論自体がどうも何を意図しているのか、よく理解ができないところです。
筆坂議員 明りょうではないですか。「武力攻撃予測事態」のときに自衛隊が動くわけでしょう。そのときに、「武力攻撃事態法」を適用すれば、「予測事態」でも戦闘地域に入っていく、あるいはアメリカの武力行使と一体化することもあり得ると、こういう考えかどうかを聞いているのです。
石破長官 それは今後の検討ですが、事態がまったく違うわけです。「武力攻撃事態」というのは、わが国が攻撃を受ける、あるいはそれが予測されるという事態ですから、まったく評価が違うことなのだと思っています。
今後、議論をされることですが、それを取っ払うとか取っ払わないとか、そういうような議論というものは、何かなじまないといいますか、違和感を覚えるものです。
筆坂議員 では、聞き方を変えましょう。
「周辺事態法」はいいですよ。「武力攻撃事態法」で、「予測事態」のときには戦闘地域に行くことがあるのか。いま、長官は、まったく違う法律なんだとおっしゃったでしょう。では、「武力攻撃事態法」のいう「予測事態」では、戦闘地域に入ってもいい、武力行使と一体化してもいい、こういう解釈かどうかということを聞いているんです。
石破長官 「周辺事態」であるという認定があるとするならば、そこで一体化ということはあり得ない話です。そういう意味においてそういう事態はあり得ないことだと思います。
筆坂議員 だから「予測事態」(のことを聞いている)。だめだよ、答えていない。
石破長官 ですから、「周辺事態」と「予測事態」というものが重なった場合、併存した場合です。
筆坂議員 では、そのときはどうなるの。
石破長官 それは、「周辺事態法」に定められているように、一体化しないということになるはずです。
筆坂議員 まったく明快じゃないでしょう。「周辺事態」と「予測事態」が重なることがあるといいながら、まったく別の法律だと。だから、「武力攻撃事態法」でいう「予測事態」のときにどうするのかと聞いているんです。
筆坂議員 もう一つ関連して聞きます。
政府は、「武力攻撃事態法」にもとづく対米支援について今後、検討するということだけれども、その検討の基本は何かというと、「アメリカのニーズ」にこたえるということでしょう。
たとえば、川口(順子)外務大臣が「アメリカのニーズ」にこたえるということで、今後、検討していくとおっしゃっている。「アメリカのニーズ」にこたえようと思えば、「予測事態」であったとしても戦闘地域に入っていく、武力行使と一体化する、そういう支援もアメリカは求めているのではないですか。
石破長官 米国のニーズにこたえるという話ですが、わが国を守るために行動している米国のニーズにこたえるということです。われわれは、わが国を守るために個別的自衛権を行使するのであって、どういう場合においても集団的自衛権を行使することはあり得ません。
筆坂議員 同じ事態が起こっているのに、「周辺事態法」を適用すれば集団的自衛権の行使になる。だから憲法上できませんと。そこへ「武力攻撃事態法」をつくってしまえば、個別的自衛権で説明できると。これはまったくのインチキですよ。
アメリカの要求ははっきりしているのです。
たとえば、ホワイトハウスの国家安全保障会議で日本・韓国部長をしているマイケル・グリーンという人がいます。この方が、日本がいま取り組むべき目標について、つぎのようにのべています。それは、「『武力行使の一体化』禁止原則の緩和」だと。「周辺事態について、自衛隊が米軍を効果的に支援することを妨げている内閣法制局の見解は、極めて現実離れした独善的なものである」「したがって、最初の『落としどころ』は『武力行使の一体化』禁止原則の緩和である」ということを、マイケル・グリーン氏は明りょうにのべています。
こんな「周辺事態法」では、実際には間に合わないではないか。だから、こんな「一体化」禁止原則を取り払えというのが、マイケル・グリーン氏、つまりアメリカの要求なのです。
私たちは反対ですが、アメリカの立場にたてば、戦争をやっている最中に危なくなったら逃げますというのは認めるわけないですよ。だから、あなた方は、それを「武力攻撃事態法」で取っ払おうということじゃないのですか。
だいたい、自衛隊がおこなう「後方地域支援」ということでやろうといっているのはなんですか。米兵、武器・弾薬の輸送、油や水、食事の補給あるいは医療、通信関係の業務の提供等々、まさに戦争遂行にとって決定的な一翼を担うものなのです。
ところが、その自衛隊が「周辺事態法」では、危なくなったら逃げますと、そもそも危ないところには行きませんと(している)。だいたい、危ないところに行かずに本当に支援活動ができるのか。だから、それを取っ払おうということでしょう。
石破長官 「予測事態」において何ができるかということは、これからご議論をたまわることだと思っています。これはまさしく米軍支援法制の中身にかかわることです。まだ法律ができていないことを前提にしてあれこれ議論をすることに意味があると思っていません。
しかし、はっきりしているのは、ではそれを取っ払ってしまって、集団的自衛権の行使までなし崩しに認めようとしているのではないかとか、「一体化」論というものをやめてしまおうという意図は、私どもにはありません。
筆坂議員 長官は、三月五日の参議院の予算委員会でこうおっしゃっているのです。
「水、油、そういうものの補給は米軍にとっても必要なオペレーションであると、そのときに、ここは危なくなりましたからさようならといった場合に何が起こるんだろう、同盟国とは何だろう、実際の現場で本当にそれがもつのか」と。“さようならではもたない”と。つまり、さようならといわないようにするということではないのですか。
だから、いまこれを議論することが意味ない(というのは)、とんでもない話ですよ。米軍支援法がどうなるのか。武力行使と一体化しないのか、戦闘地域には行かないのか。これは法案の中心問題でしょう。それはまだ出てきていないのです。議論することに意味がないというのはなにごとですか。重大な問題ではないですか。意味がないではすまされないですよ。
やるのかやらないのか、どっちなんですか。
石破長官 その法律は、これから先、政府全体として議論をしていくことですので、そういうことを前提にして申し上げることは適切ではないということを申し上げておるわけです。
憲法に触れるような、憲法に反するような法律が成り立つはずがないということは、委員よくご案内のとおりです。
筆坂議員 答弁になっていないですよ。
憲法を守るのは当たり前だとあなた方はそう言いながら、一体いくら破ってきたのですか。そんなことではだめですよ。
対米支援法では戦闘地域に行くのか行かないのか、武力行使と一体化するのかしないのか、それをちゃんと答えなければ、答弁になっていない。
石破長官 それはこれから議論をされることですが、集団的自衛権の行使が認められない、これは政府の立場として一貫をしているわけです。
ですから、「一体化」をなし崩しにするとか、集団的自衛権に触れるようなことができるはずもない、そのような立法があり得るはずもないということです。
筆坂議員 結局、答弁を回避しているんですよ。集団的自衛権(の行使)になるようなことはしないと言っているだけです。そんなこと分からないではないですか。
この法律の中心の一つは対米支援でしょう。どう対米支援するかが中心問題ではないですか。それについてまったく方向を明らかにしていない。
制約を取り払うのか取り払わないのか、どっちなんですか。対米支援法では周辺事態法と同じような制約を設けるのか設けないのか、どっちなんですか。その方向もはっきりさせないで、いったい何を今後、検討していくんですか。そして、アメリカはそれを取っ払えと要求しているではないですか。なんで明言できないのですか。
川口順子外相 具体的に中身が明らかではないではないかということをおっしゃっていますけれども、これについてはまさに今後、議論を具体的にしていくということで、将来、必要があれば、その時点で国会におはかりをすることになると思います。
筆坂議員 結局、答えられないのですよ。結局、戦闘地域に行くとも行かないとも、「武力行使一体化」禁止原則をそのままつづけるともあるいは破るともいわないのです。それはなぜか。それは、そこを破るためにやろうとしているのでしょう。それを隠しているだけですよ。
筆坂議員 しかし、あなた方はすでに、現実には、戦闘地域に入っていかない、武力行使一体化はしないという原則を破っているのですよ。
たとえば、「テロ特措法」で派遣された自衛隊の補給艦「ときわ」が、アメリカがイラク戦争の「コンバットゾーン」に指定しているオマーン湾で、アメリカの補給艦に約二十二万ガロン補給する。それが米空母キティホークに補給された。これは(自衛隊の)石川統幕議長も認めています。まだ戦争が始まる前だと弁解しています。しかし、この時点で、空母キティホークはイラク南部の飛行禁止空域での監視・爆撃行動―「サザンウオッチ」といわれていますが―これに参加しているのですよ。
要するに、アメリカのニーズがあれば、「コンバットゾーン」であろうと入っていく。これを実際に自衛隊の艦船はやっているということではないですか。現に、もう破っているのですよ。
石破長官 「コンバットゾーン」というのは、当該地域に派遣されている米軍人の手当、税制優遇措置等、福利厚生の観点から設けられているもので、軍事行動における米軍の活動地域をそのまま意味するものではないということは何度も答弁を申し上げているとおりです。
そして、「ときわ」の補給についても、「テロ特措法」の範囲内で行っているものです。それは合衆国とわれわれとの間で交換公文を締結し、「テロ特措法」の趣旨をよく理解し、その目的の範囲内でしか使わないということを確認しているものです。
筆坂議員 なにも分かっていないのです。分かっていてそういっているのか、どっちかですよ。
だいたい、「コンバットゾーン」についてアメリカの統合参謀本部はどういうふうにいっているかといえば、「戦闘部隊が作戦遂行のために必要とする地域」と規定しているのです。兵たん地域とも明確に区別しているのです。兵たん地域は「コミュニケーションゾーン」というふうに呼んでいます。
「福利厚生」といいますが、別にこれは福祉施設をつくっているのではないですよ。要するに、危険な地域なのです。戦闘で負傷したり、死んだりする、だから給与体系を特別にしているということなのです。
たとえば、これはアメリカの陸軍幹部学校の教本です。「コンバットゾーン」についてどういっているか。「射撃、砲撃は毎日発生する、死の恐怖は広がっている、コンバットゾーンではいつどこで敵が現れるかもしれない。常にストレスがあり、不確実性に満ちている」と指摘しているのです。
しかも、「テロ特措法」で行っているのだということをおっしゃった。しかし、さっき私がいったように、イラクにたいする監視・爆撃行動である「サザンウオッチ」にちゃんと参加しているのですよ。
開戦前だということも防衛庁はいうのです。しかし、「コンバットゾーン」というのは開戦の前から指定されるのですよ。「ときわ」が補給したのが二月二十五日でしょう。二月二十四日の国防総省(ペンタゴン)のホームページを見ると、すでにその地域は「コンバットゾーン」に指定していると書いているのです。まったくのごまかしです。まさに戦闘地域なのです。そういうごまかしで、実際には、制約を破っているのですよ。そして、その制約をこんどは法律のうえでも取り払おうというのが、あなた方のねらいなのです。
もう一つ、新ガイドラインで約束したもう一つの問題に、施設の使用という問題があります。
民間の空港・港湾の使用は「周辺事態法」で法的な義務とされました。新ガイドラインでは、新たな施設・区域の提供ということも約束しています。有事法案では、「予測事態」の段階で陣地をつくれることになっています。この土地は米軍に提供することが大きな目的の一つになっているのではないですか。
去年の五月七日、川口外務大臣がこうおっしゃっています。「日本政府が米軍へ陣地として使用される施設・区域をより迅速に提供ができるような、あるいは緊急通行についても今後検討していく必要がある」
川口外相 米軍にたいしてどういう支援をおこなっていくかということはこれから検討していくわけで、そういう意味では検討の課題の一つであると思います。
必要であれば、それは日米地位協定にもとづいておこなうわけで、そのなかには、施設・区域(の提供)ということも入る可能性はあります。
筆坂議員 要するに、アメリカのニーズがあれば、要請があれば、米軍のための新たな施設・区域の提供もするということなのです。
「周辺事態法」というのも典型的な対米支援法でした。その制約を取っ払って、陣地の提供なんかは、こんどは罰則付きで強制的に土地の収用までやるのです。アメリカに新たな陣地を提供するために国民に罰則付きでまで動員していく。まさにきわめつきの対米支援法、これが有事三法案なのです。こんなものは絶対認められない、廃案しかないんだということを指摘して質問を終わります。
20日の参院有事法制特別委員会で、日本共産党の筆坂秀世政策委員長が行った質問に、視聴者からメールやファクスで反響が寄せられました。その一部を紹介します。
的確な質問を見て、スッキリしました。それに対する防衛庁長官の答弁はノラリクラリでひどい。こんなのは絶対に通せない。明日、地域で宣伝します。(電話で大阪府の男性)
筆坂さんが真剣に質問しているのに、与党席は、もう決まっているからといった態度でやじったりしている。このような態度は国民に対する背信行為だ。どんなことがあってもがんばってください。(中年の女性)
筆坂さんの発言がとってもカッコ良かったです。ガンバレ日本共産党!(ファクスで)