日本共産党

2003年5月21日(水)「しんぶん赤旗」

個人情報保護法案

発表する場なくなる

参院委 城山三郎氏(作家)ら陳述


 参院個人情報保護特別委員会は二十日、参考人質疑をおこないました。

 作家の城山三郎氏は、著述業について政府案では政府の監督対象とならない「適用除外」としたのに雑誌・出版社は除かれた問題について、「調べる自由、書く自由はあるが発表する場がない」「言論・表現の自由は自由主義の根底にある。地下茎をダメにするとさまざまな自由が枯れてしまう。その恐ろしさを考えてほしい」とのべました。

 日弁連個人情報保護問題対策本部の清水勉事務局長は、政府案では個人情報取扱業者にたいする主務大臣の権限行使に制限がなく、「いつ報告を求められるのかと委縮効果が起きてしまう」と指摘。政府案が成立しても住民基本台帳法付則で住基ネット実施の前提とされた「個人情報保護に万全を期す」ことにならないとのべました。日本雑誌協会個人情報・人権等プロジェクトチーム座長の山了吉氏は、適用除外の「報道」に雑誌も含むと政府が答弁したことについて、「条文がすべてだし報道の定義も狭い」と指摘。「報道か否かを判断するのは主務大臣であり、報道以前の話となれば調査報道が打ち切られる」とのべ、スクープ取材にたいする障害になると強調しました。

 日本共産党の八田ひろ子議員は、警察保有の個人情報が保護の対象とされない問題点を質問。吉川春子議員は、主務大臣が事業者に求める報告によって行政の介入を招く危険性を質問しました。

 これにたいし政府の法制化検討委員会の座長を務めた堀部政男中央大学教授は「将来的には(主務大臣でなく)独立した検討機関を設けるべきだ」と答えました。


個人情報保護法案参考人陳述

 二十日の参院個人情報保護特別委員会での参考人質疑のうち、作家の城山三郎氏、社団法人日本雑誌協会の山了吉・個人情報・人権等プロジェクトチーム座長の意見陳述から紹介します。

書き手と書く場を分断

作家  城山 三郎氏

 (法案を通すため)官僚たちが演出したと思いますが、手口として分断作戦というものをやった。新聞、テレビは(適用除外のなかの)別枠で「報道機関」という名前をつけた。そのために、新聞やテレビはほとんどとりあげなかった。

 私のところにも、読者から手紙がきて、「城山さん一人が騒いでいるけれども、何で騒ぐんだ。新聞もテレビもとりあげていないじゃないかと」。完全に、向こう(政府側)の分断作戦の成功です。それぐらい、新聞、テレビはとりあげなかった。

 その分断作戦はいまも続いていて、今度「改正」になった法案でも、私たちが調べる自由とか書く自由は与えてくれました。けれども、発表する場はないんです。雑誌とか出版は全部、コントロール下に置かれますから、雑誌や出版が「ノー」といったら、書いても発表する場所がない。自分の原稿を見せて歩くよりしょうがないですね。つまり、物書きが生きていけなくなる。書き手と書く場を分断してしまうという悪質な分断作戦です。

 私は、言論・表現の自由というのは、自由主義の根本にあるといいますか、地下茎に等しいものだと思います。その上に、職業選択の自由とか、いろんなものが芽を出しているわけです。根幹にある言論の自由という地下茎を駄目にしてしまえば、さまざまな自由が全部枯れてしまう。消えてしまう。そういう非常な危険を持っています。

 そういう恐ろしさを、いったいどこまで考えて、いまの内閣は、こういう乱暴な法律をつくってくるのかということで、私は肌寒くなる思いがします。こういう人たちは、二度と議場に立ってほしくない。これは、憲法を曲げかねないことですから、当然、公約にうたうべきです。公約には一言もうたっていないで、政権とったらこういうことをやる。とんでもない話です。

監督権限の適用除外に

日本雑誌協会  山 了吉氏

 雑誌は個人情報の積み重ねによってできる記事が多々あります。また、フリーライターや作家が取材するということは、個人情報をきめ細かく集めて、ノンフィクションの作品にしたり、記事にしたりすることにつながります。

 これらは同じ個人情報ですが、なぜ(行政からの監督権限の適用除外に)出版社、雑誌が明記されていないのか。(法案では)「著述を業として行う者」など、ほぼ作家やフリーライターをさすであろう者は、(適用除外として)明記されていますが、発表する舞台である本、出版、雑誌は一行も書かれていない。これが(法案の)一番大きな問題です。

 次に、(適用除外となる)報道の定義についてです。法案では、「不特定多数の者に対して客観的事実を事実として知らせること」とあります。しかし、「客観的事実を事実と知らせる」とはどういうことでしょうか。たとえばスクープはだれも知りません。これが報道にはいるのでしょうか。行政側は、「報道機関が報道と思えば、報道です」といいます。そうであるなら、その通り条文に書けばいいわけです。しかし条文には書かれていません。

 (法案の監督権限を持つ)主務大臣の権限が大きすぎます。たとえば、主務大臣が昨年おやめになった某議員だった場合どうするのでしょうか。

 主務大臣が「ちょっとまて」と。これは報道と称しているだけだとストップがかかる可能性もなきにしもあらずです。そうなった場合、せっかく極秘裏に進めていた調査報道がそこで打ち切られることになります。

 それから、個人情報保護法違反で訴えをおこされたとき、もし、裁判官がこの法案を条文通りに解釈したら、どのようになるかということを危ぐしています。実際に、司法の現場で使われたら、(訴えられた雑誌や出版社は)かなりプラスアルファの損害賠償金額をとられたり、あるいは謝罪文の掲載を命じられたりすることになるだろうと思います。


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