日本共産党

2003年5月19日(月)「しんぶん赤旗」

輸入牛肉の履歴表示

米が“やめよ”と圧力


写真
市販されている牛肉パック

 牛肉の安全性確保のためトレーサビリティー(生産・流通の追跡可能の仕組み)を導入する法案が十六日の衆院本会議で可決しましたが、同仕組みの対象に輸入牛肉を加える野党の修正案をめぐり、アメリカ大使館から“圧力”がかけられるという異常な事態がありました。与党や政府が野党案を拒否しており、圧力が効を奏した形です。法案の名前は、「牛の個体識別のための情報の管理及び伝達に関する特別措置法」案。BSE(牛海綿状脳症)をきっかけに下がった牛肉への信頼を消費者への情報開示で回復するのがねらいです。

与党、政府が導入案拒む

 法案では、牛一頭ごとに個体識別番号を表示した耳標がつけられ、生産、流通、店頭の段階ごとに個体識別台帳の整備が義務付けられます。違反すれば罰金がかけられます。

国内流通量の6割以上除外

 ところが、このシステムの中には、国内流通量の六割以上を占めている輸入牛肉は含まれていません。対象は、ミンチや加工品を除く国産牛肉だけで全体流通量の25%です。

 外国産牛肉を対象に含めることは、輸入肉に多い病原性大腸菌O―157の感染や成長ホルモン剤投与の対策など消費者の不安にもこたえることができます。

 日本共産党は同法案にたいし、耳標経費などに行政の支援措置を求めるとともに、輸入牛肉も対象とするよう修正案を用意。民主、自由、社民の各党とも協議し、四野党修正案がまとまりました。

 修正案は、店頭の牛肉表示について、トレーサビリティーの実施国と未実施国とに分け、実施国からの輸入物は個体識別番号などの表示を義務付ける、未実施国は実施していないとの表示を義務付ける、というものです。

 八日、十三日の衆院農水委員会で野党側は、輸入牛肉を対象に含めても検疫など国際協定上問題ないことを明らかにしました。十四日昼の同委員会理事懇談会では、野党修正案の成文も示し、修正に応じるよう与党側に申し入れました。

 「与党のなかにも輸入牛肉を対象とすることは必要という議員もいた」(日本共産党の中林よし子衆院議員)という状況がありました。

米大使からの面会要求の後

 この時点でアメリカ大使館からの“横やり”が入りました。「輸入牛肉はトレーサビリティーの対象とするな」との圧力です。ベーカー米国大使が同日、農水大臣に面会を求めてきたと、米大使館筋から話がきたことを自民党理事がもらしました。参加した理事は口々に「それは内政干渉だ」と批判。自民党の理事も「農水大臣は会う必要はない」と声をあげました。農水省の幹部は理事懇の部屋の外でうろうろしていたといいます。

 野党案を与党が持ちかえって協議した後に開いた同日夕方の二度目の理事懇では、結局、与党側はアメリカに配慮したのか、「時期尚早だ」などといって修正を拒否。亀井農水相は同日の農水委で、ベーカー大使と会わなかったと弁明したものの、輸入牛肉を対象から除く理由として「不必要な貿易障壁になる」と答弁しています。

 これにたいし、野党側からは「圧力に屈したと見ていいのか」「日米首脳会議があるから、アメリカに配慮せざるをえないのか」との声があがっています。

 牛肉へのトレーサビリティー制度は、豪州産はすでに導入しているものの、アメリカ産は一部業者しか同システムで輸入はしていません。「米国の圧力が影響か」と報じた日本農業新聞(十五日付)は、「この表示が義務付けられれば、米国産牛肉のイメージ低下を招く恐れがあり、米国が過敏になったといえる」と指摘し、農水委理事や農水省に圧力をかけてきたと報じています。


食の安全での屈服許せない

 国民の食糧と健康を守る運動全国連絡会(全国食健連)の坂口正明事務局長の話 食の安全対策を万全にしようという法律案に、自分の国の牛肉が売れなくなるからと横やりをいれるアメリカの態度には怒りを覚える。また、その意を受けて野党四党の修正を否決した議員は、国民にたいして責任を負うという国会議員の役割を否定するもので、どこの議員かと思う。

 食品安全基本法案では、輸入品も対象にしている。牛トレーサビリティー法案のような個別法案も当然同じにすべきだ。BSE対策法で力を発揮したように、国会内で頑張る議員と国民が連帯して、輸入肉にもトレーサビリティーを義務づけるよう、運動をすすめたい。


野党4党が独自法案提出へ

 政府提出の牛肉トレーサビリティー法案が衆院を通過したことをうけ、共同修正案を提出した日本共産党、民主党、自由党、社民党の野党4党は、「牛肉流通の6割を超える輸入肉を野放しにする」として、輸入牛肉を対象にした新たなトレーサビリティー法案を提出することで一致しました。

農民連、畜全協は農水省申し入れへ

 農民連(農民運動全国連合会)と畜産農民全国協議会は、牛肉のトレーサビリティーが国産だけに限られたことにたいし、「安全性が危ぐされる輸入牛肉がフリーパスで流通するのは問題だ。これでは偽装・混入があった場合、国内農家や業者が打撃を受けてしまう。また、生産者の負担が過大となる恐れがある」と批判。改善のため27日に農水省に申し入れをする予定です。


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