日本共産党

2003年5月16日(金)「しんぶん赤旗」

国立大の法人化法案に異議あり

東洋大学教授 片平洌彦さんにきく

「悪しき癒着」が薬害招いた

国民に必要な研究できない恐れ


 国会で審議されている国立大学法人法案は、国立大学への国からの統制が強まり、国民生活や安全に関わる研究への影響も懸念されています。同法案が成立した場合予測される影響を、約三十年にわたり薬害問題を研究してきた東洋大学の片平洌彦教授に聞きました。(聞き手・松沼環記者)


 薬害が続く大きな社会的な要因は、第一に製薬企業が安全性を軽視・無視をして利潤追求をしてきたことです。本来それに対し、規制する側にある国の薬事行政が、きちんとした規制を行わず企業に追随してきました。それから医学界・医師・医療機関の問題があります。

 医学、薬学部における企業との産学協同が健全なものならいいのですが、癒着することもある。薬害の原因は、一言でいえば、産官学医の悪しき癒着のためで、これらの関係者が少なくとも結果的に薬害を起こすことに協力してきたためです。この癒着にメスを入れて薬害根絶に向かわせるうえで大学が果たす役割は大きいのですが、そのためには、学問の自由、大学の自治、大学における民主主義が保障されていないといけない。

 スモンでは、患者会の働きかけもあって、大学関係者も多数参加して国による研究班が作られ、被害者の実態と原因物質であるキノホルムとの因果関係、さらには「社会的原因」である企業と国の責任を明らかにし、恒久対策のあり方も解明してきました。当時国立大学にいた私も参加し、被害者の実態、さらにはスモン多発の社会的要因を解明し、文献調査により「被告企業は日本でのキノホルム使用中止の実に三十五年前にスモンのような副作用が起きるという報告を受けていたが、安全な薬として販売し続け、国もこれを認め続けた」事実などを明らかにすることができました。しかし、そのような研究は、今回のような法案による法人においてはやりにくくなる、否、できなくなるのではないか。

外部資金依存で意向に沿う研究

 法人化で国の国立大学に対する財政的な責任、公的責任が後退するために、大学は企業などからの外部資金に依存せざるを得なくなる。そうなれば出資先の意向に沿う研究しかできなくなります。薬害被害者は健康・生活が破壊されお金はありませんから、大学にお金を出して研究を頼むことはできません。薬害の研究にお金を出すような企業はないですから、被害者の側に立った研究はできなくなってきます。

 そして法案では、役員や経営協議会に学外者が入ることになっていますが、学外者に製薬企業の関係者が入れば、当然、薬害などの研究は歓迎されないでしょう。

 薬害の研究は疑いもなく被害者には役立つのですが、「アカデミズム」の世界ではあまり評価されないのです。法人化でさまざまな評価が導入されますが、企業人も加わった評価では、ますます「こんな研究は要らない」ということになるのではないでしょうか。また、法案では教授会の位置付けもあいまいで、学長に権限が集中されトップダウンの方式になると予想されています。国立大学法人の教員が、薬害問題を研究課題として取り上げようとしても、それが認められないとか、評価されないということになる可能性があります。

 大学の中期目標を文科相が決め、その達成を評価することになっていますが、中期目標からそうした研究が排除される可能性もあります。

スモン研究班を途中で外された

 私は、国のスモン研究班では、裁判の和解後は薬害防止のための研究を開始し、医薬品の添付文書の日米比較などをしました。その結果、米国に比較し、日本の添付文書は安全性を重視していない傾向があることが判明し、改善を提案し続けました。ところが研究の途中で研究班から外されてしまいました。その表向きの理由は「この研究班は難病の、病気の研究班だ、薬の研究は別のところでやってもらいたい」というのです。スモンは薬害なのに…。この時、「これだから薬害が起きるのだ」と実感しました。

 事実、まことに残念なことですが、スモン以後、大きな薬害だけでも、薬害エイズや薬害ヤコブ、薬害肝炎などの事件が起きています。このような薬害の歴史には何としても終止符を打たねばなりません。そのためにも、薬害等の被害者・国民に必要な研究をできなくする法人化には強く反対します。「薬害ヤコブ」の和解では、国は薬害教育を医学等の教育において取り上げるように努めることを約束しました。この約束を破らないでほしいと思います。

 考えてみれば、問題は薬害だけでなく、公害・環境汚染・諸災害・難病・原水爆等の戦争被害等々、すべて同様です。こうした、国民にとって切実な問題の解明・解決の上で大学が果たすべき役割は大きい。そうした研究・教育の成果を享受するのは国民ですから、国民が大学にどんどん注文を出すとともに、国の大学政策を監視・批判していくことが必要と思います。


 かたひら・きよひこ=東洋大学教授。一九四四年生まれ。社会医薬福祉学、薬害・難病問題。スモン、薬害エイズ、薬害ヤコブなどの問題に取り組む。薬害オンブズパースン会議副代表。著書は『ノーモア薬害』『かけがえのない生命(いのち)』など。


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