2003年5月11日(日)「しんぶん赤旗」
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参ったよ。就職活動を始めて半年経つのに三十社受けて内定通知なし。この前の大手メーカーなんてわずか十数人という社員募集枠に二万人だよ。こんな不況の時期だから、とりあえずフリーターでいて、ちゃんと就職するのは景気がよくなってから考えるかなあ。
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その考えはちょっと甘いわね。いま大企業は「もう正社員はいらない」という考えよ。グローバル時代の企業間競争に勝ち抜くためには、もっと人件費コストを削減しなきゃいけないってほとんどの大企業がリストラをすすめ、裁量労働や違法派遣の導入、賃下げなどすごい状況になっている。
こういうやり方でトヨタ自動車は一兆四千億円の過去最高の利益をあげると新聞に出てる。だから、景気がよくなったら正社員として働きたいと思っても、ますますきびしくなるよ。財界や大企業はもっと正規雇用をリストラし、給料を引き下げて、安くて無権利の不安定雇用に置き換えていこうとしているの。いま国会で審議されている労働法制改悪は、そのための法律の整備をしようというもので、労働者にとっては、戦後最大の攻撃に直面しているといってもいいわね。
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そんなに労働法制が大事だとは知らなかったな。全然テレビでもやっていないし。どういう中身なの。
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法律が定めている働くルールというのは、八時間労働制で雇用の期限をつけない正社員が基本なの。八時間を過ぎて働かせる場合はペナルティー(罰金)として割増賃金を払わなければいけないのよ。そういう労働者を守るルールを企業の都合のいいようにつくり変えようというのよ。労働基準法は、期間を決めて雇用する場合に、これまでの一年を三年に伸ばす。専門職は三年を五年にする。一年契約だと仕事になれるころに期限がくるから中心的な仕事は正社員で採用するしかなかったけど、三年にすれば使いやすくなる。正社員採用をやめて、三年契約で使えるだけ使おうということよ。
一方、「使用者は解雇できる」と、「解雇自由」を法律に盛り込んで、正社員のリストラをやりやすくする内容になっている。
それから、仕事を自由裁量にまかせるという一見よさそうな裁量労働制(企画業務型)を“原則本社”の制限を外し、ホワイトカラーに広く導入できるようにすることも改悪の一つね。どれだけ働くかは労働者まかせで、厳しいノルマがくるから毎日終電でヘトヘトになるまで働かされるなんてことになりかねないわ。
労働者派遣法は、派遣労働者の派遣期間を一年から三年に延長し、製造業への派遣も解禁する。正社員を不安定雇用に置き換え、必要な時に必要なだけこき使おうという“労働者使い捨て”をねらっているのよ。
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たまんないね。この法律が通ったら、職場の環境がまるで変わるね。企業の思いのままだね。
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これは、財界が早くから主張していたことなのよ。日本経団連の前身の日経連が一九九五年に「新時代の『日本的経営』」を発表したわ。このなかで、正規雇用はしないことをはっきりいっている。労働者を三つのグループに分け、企業の核となるごく一部の「幹部候補生」が終身雇用と昇給制度がある働き方ができるけど、企画や営業、研究開発といった専門分野の社員は期限つき昇給なし、その他は時間給でパートやアルバイトで使うという構想なのよ。小泉内閣がその意を受けて今回の改悪案をつくったの。裁量労働制の拡大で十九兆八千億円、派遣労働、有期雇用の拡大で十三兆二千億円、しめて三十三兆円が労働法制改悪でもうかるという試算もあるわ。
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労働基準法って労働者を守る法律だよね。それが経営者のほうに顔を向けて、若者を使い捨てしやすくするなんて、変な話だね。
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有期雇用を多数にするなんて憲法や労働基準法の精神からいっても間違っているわ。日本共産党の山口富男衆院議員が六日の本会議で追及してたけど、戦前の日本は「女工哀史」といわれるように、ひどすぎる労働条件と低賃金で女工たちを職場に縛りつけていたの。こんな暗い歴史をくりかえしてはならないと、戦後、八時間労働制など国が働く基準を積極的に示して違反者には罰則を科し、労働者の保護をはかるようにしたのよ。「女工哀史」の時代に逆戻りする働かせ方を法律で決めるなんて絶対許せない。労働組合はもちろんだけど、草の根から改悪に反対する運動を急速に広げていくことが大切ね。