日本共産党

2003年5月8日(木)「しんぶん赤旗」

国家統制狙う国立大法人法案

参考人質疑で鹿児島大前学長

“学問衰退”と批判


写真

参考人として発言する田中弘允前鹿児島大学学長=7日

 衆院文部科学委員会は七日、国立大学法人法案に関する参考人質疑を行いました。百人近くの大学関係者が傍聴する中、前鹿児島大学長・田中弘允氏、味の素株式会社技術特別顧問・山野井昭雄氏、広島大学長・牟田泰三氏、教育ジャーナリスト・山岸駿介氏が参考人として意見陳述。このなかで田中参考人は「国立大法人化は、教育研究の自主・自律を失わせる。政府や官僚が強力な権限を持ち、国立大を統制できる仕組みを内包した制度だ」と述べました。(4面に関連記事)

 日本共産党から石井郁子議員が質問に立ち、「教育研究の中期目標を文科相が定め、大学が作成した中期計画も文科相が認可し変更命令も出す、国立大評価委員会のみならず総務省の評価委員会の評価も受けるなど、世界にも例がない制度だ。学問の自由や大学の自治にとって重大な問題をはらむ法案だ」と指摘。「この法案は『運用次第だ』という声もあるが、それで大学の自主性は確保できると考えるか」と質問しました。田中参考人は「中期目標や計画の策定、評価、予算配分、大学の改廃などは法律の根幹部分だ。根幹部分を運用、裁量でやるなど法治国家のやることではない。そういう法律は作るべきではない」と答えました。

 石井氏は、「『本制度が強要されれば学問は衰退を余儀なくされる』といわれたが、具体的に述べていただきたい」と質問。田中参考人は「外から目標が与えられ、評価され点数化されれば、教育と研究の本質自体がゆがめられ、国際競争力も長い目で見れば落ちる」と述べました。


国立大学法人法案

田中弘允前鹿児島大学長の意見陳述(要旨)

教育研究の自主・自律失われ学問の衰退招く


 七日の衆院文部科学委員会で行われた国立大学法人法案に関する田中弘允・前鹿児島大学長の意見陳述(要旨)は次のとおりです。


 国立大法人化の中心目的は自主性・自律性の拡大にあります。しかし本法案では、大学の本来の任務である教育研究の自主・自律は逆に失われます。なぜなら大学にあった企画・立案機能は文科省の権限に移され、大学には実施機能しか割り当てられないからです。政府や官僚が強力な権限を持ち、国立大を直接統制できる仕組みを内包している制度といえます。

 具体的には、文科省は国立大に対し六年間の教育・研究等の目標・計画を指示、認可します。そして六年後、成績評価と予算配分、次期の目標・計画の指示、認可、大学の改廃までも取りしきるのです。大学へのこのような国のしばりはわが国に存在したことがなく、構造改革の旗印である規制緩和にも矛盾します。

 このようなわい曲は世界にも例を見ず、憲法二三条の「学問の自由の保障」や教育基本法一〇条の「教育の不当な支配の排除」にも反します。本制度の下では真の教育研究を行うことは困難であり、強要されればわが国の学問が衰退を余儀なくされるのは明らかです。

膨大な事務に人手割かれる

 法人化は行革の一環として始められましたが、政府の業務や権限はスリム化・効率化どころか、増大、煩雑化します。大学においても、計画の作成や公表、評価書類の作成とやりとりなど膨大な事務が発生し、多くの人員と財源が教育研究以外に割かれます。教育研究の高度化という大学改革の本来の趣旨に根本から矛盾する壮大な浪費です。

 「競争原理導入による大学の活性化」という発想は、教育研究の外面的評価、数値化によって、熱心で有能な人々の学問的内発性をそぎ、人間精神の純粋な創造的・発見的エネルギーをかく乱し低下させる逆説を生みます。一時的な効果はあってもたちまち息切れし、日本の高等教育を凡庸な水準に収れん・停滞させるでしょう。

 行革には、市場競争原理導入と地方分権の二つの手法があります。前者はヒト・モノ・カネを大都市に集中させ、後者は過度の大都市集中に伴う政治経済のゆがみ、文化の一様化・平板化、社会問題の噴出等を回避し、多様な活力ある地域社会を発展させる役割を果たします。

 ところが国立大法人化は競争原理に強く依拠しており、企業立地の実情や県民所得等の格差があるもとでは、地方国立大と地域社会には憂慮すべき事態がもたらされます。地方の衰退を招くのはほぼ確実であり、地方活性化をうたう地方分権に逆行します。

協力原理での大学活性化を

 日本の大学にはかなりの業績と潜在能力がありますが、それらを一般社会と結びつけるチャンネルが欠如しています。大学の学問研究を地域社会現場と結びつけ、二十一世紀のグローバルな問題に各大学が相互補完的に協力し対応しうるネットワークが形成されれば日本の大学はよみがえるはずです。「競争原理」のみでなく「協力原理による相互活性化」も必要なのです。

 以上述べたような致命的な矛盾を内包する本法案は、わが国の高等教育、学術研究の水準の向上と均衡ある発展を図るという目的と反対の結果を生みます。わが国の未来を見据えた理性ある判断を期待いたします。


もどる
「戻る」ボタンが機能しない場合は、ブラウザの機能をご使用ください。

日本共産党ホームへ「しんぶん赤旗」へ


著作権 : 日本共産党中央委員会
151-8586 東京都渋谷区千駄ヶ谷4-26-7 Mail:info@jcp.or.jp