2003年5月1日(木)「しんぶん赤旗」
五月一日はメーデーです。「労働法制改悪を許さず、働くルールの確立を」「国連によるイラクの平和と復興を。許すな有事法制」と諸要求をかかげ、全国各地で集会やデモがおこなわれます。全労連などでつくる実行委員会主催の第七十四回中央メーデーは、東京・江東区の亀戸中央公園で午前十時から開催されます。
太郎(公務員) 職場はどう?
健二(大企業職員) 不安ですよ。業績回復したのに会社はまたリストラするといってますから。
桃子(派遣社員) 私も派遣先は業績好調なのに、派遣料が下げられたの。来月契約が切れるし。
誠(中小企業社員) うちは、過去最高の利益をあげた親会社から三割カットを押しつけられ、一時金なし賃金もカットだ。
太郎 これからは会社がもうけても賃金は上げない、人件費コストを下げるというのが、日本企業の姿勢だ。政府は、労働基準法や労働者派遣法を変えて後押しするというんだ。
誠 正社員を減らして、賃金が安くてクビきりが簡単なパートタイマーや契約社員、派遣社員を増やしていくために、契約期間の上限を一年から三年に延長するんですよね。派遣のソフトウエア開発など専門職は、三年を無期限にすると。
桃子 契約期間が長くなれば、安心して働けるんでは。
健二 そうとは限らないんだ。幹部候補の新入社員が三年の契約社員にされ、成果を上げれば契約更新されたり、一部を正社員に採用するってことだと思う。
桃子 それじゃ、正社員を派遣や契約社員にしたい企業のための法改正だわ。派遣って相当不安定なのよ。
誠 その派遣が製造業務に解禁されますよ。
健二 派遣労働者は工場の縮小や閉鎖の際に簡単にクビが切れる。
太郎 正社員でも、安心はできないんだ。法案は労基法に「労働者を解雇できる」と明記する。経営者が不当解雇を乱発しかねないよ。もう一つ、法案には重大な問題がある。違法なサービス残業を合法化する企画型裁量労働制の拡大だ。
誠 実際に月百時間働いても、あらかじめ労使がきめた“働いたとみなす”時間分が二十時間なら、その賃金だけ払って残業代は払わなくてすむんだ。
太郎 今は、原則本社の企画部門などに認められている企画業務型裁量労働制を本社以外にも広げるというんだ。
健二 うちの会社は、裁量労働制じゃないのに残業代請求枠をきめて労働基準監督署から摘発された。監督官が言っていたが、裁量権があるかどうかは外から判断しにくいので、本社機能かどうかで摘発しているそうだ。本社制限がないとホワイトカラー全体に広がり、摘発も難しくなるだろう。
桃子 低賃金で雇用は不安定、過労死するほどただ働きしろなんて、こんなひどい法案初めて知ったわ。世間に全然知られていないんじゃない。
太郎 そう、急いで知らせていく必要がある。
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「正社員の派遣労働者への置き換えに拍車をかける労働法制改悪を許さない」とメーデーに向け、決意を語るのは、カメラや双眼鏡の大手メーカー、ニコン(本社・東京)の労働者でつくるJMIU(全日本金属情報機器労働組合)ニコン支部の組合員たちです。
ニコンでは、「余剰人員」と見なした四十五歳以上の正社員を人材派遣会社の「富士アウトソーシング」(本社・宇都宮市)に「社外出向」させ、その人材派遣会社がみつけた仕事に従事させています。これまで精密機械をつくっていた労働者が、食品会社の廃棄物処理や騒音のひどい自動車部品工場で働いています。
その一方、ニコンでは半導体製造装置「ステッパー」を製造するニコン熊谷製作所(埼玉県)に三百人近い派遣労働者を受け入れています。
「狙いは、正規社員の退職強要で、まさに人権侵害」とJMIUニコン支部の多田康弘委員長は批判します。
本来、人材派遣法では、製造業への人材派遣は禁止されています。ところが、ニコン熊谷製作所では、製造現場で多くの派遣労働者が働いています。富士アウトソーシングから派遣されたニコンの正社員も製造現場で働いています。「派遣」でなく、「請負」だという名目で違法な派遣がまかり通っています。今回の労働法制改悪では、こうした違法な製造現場への派遣を合法化し、派遣労働をひろげようとしています。
JMIUニコン支部では、「正社員を人材派遣するなど許されない」と団体交渉や宣伝をくりひろげてきました。たたかいを通じ、「本当に労働者のために一生懸命やってくれるのはJMIUと知った」と、ことしになって十六人の組合員が増え、ニコン熊谷製作所でニコン支部熊谷分会を結成しました。
四月十七日には、東京・有楽町の量販店「ビックカメラ」前で「人材派遣会社への『社外出向』を撤回せよ」と宣伝。「ニコンファン」という年配の男性も「ニコンでこんなにひどいことがやられているの」と声をあげ、「がんばって」と次々と激励がありました。宣伝した組合員三十人のなかには、多くの新入組合員の姿がありました。
「労基法改悪反対 三年有期雇用をするな」。四月下旬、大阪市北区にある大阪自治労連の事務所に自治体の非常勤職員が集まってきました。同労連関連評議会の役員会です。会議を終えてから夜遅くまで府下各地で開かれるメーデーの横断幕づくりをしました。
「これまで三年、五年と『雇い止め』を押しつけてくる行政に、仕事の実態も示して押し返してきました。ところが今回の改悪で有期雇用が一年から三年になったら、実質“解雇予告付きの有期雇用”にされちゃう危険性があり、死活問題なんです」と関連評議会の川西玲子事務局長(55)。
地方自治体ではいま、「自治体リストラ」で正規職員が削減され、保育や給食、医療などの分野ですでに三割を超える非正規職員が市民に接する業務に従事しています。住民サービスをいっそう切り捨てようとするのが労基法の改悪案です。
堺市の河中延子さん(61)は二十四年の経歴をもつベテランのパート保育士です。「堺市は公立保育所を次々と民営化し、保育士や給食調理員を正規から臨時・非常勤に置き換え、さらに安上がりの臨時職員をつくろうとしています。住民のために働くという自治体の責任を投げ捨てるもので、絶対に許せません」
堺市では四月、「バリュアブル(価値ある)スタッフ」と称した六カ月雇用の臨時職員を九十五人採用しました。地域最低賃金ぎりぎりの低賃金で、これらの人に生活保護受給者の自立支援やDV(ドメスティックバイオレンス)対策、児童虐待対策の相談など本来正規のケースワーカーがやってきた業務を担わせたり、個人のプライバシーに関する税の滞納整理や徴収業務に従事させようとしています。
関連評議会では、脱法的な臨時・非常勤職員の雇用のあり方の抜本的な改善や、臨時・非常勤職員と正規職員との均等待遇を要求し、メーデーで大いにアピールしようと張り切っています。
パートや派遣労働者が急増しています。総務省の労働力調査によると、雇用者(役員を除く)四千九百五十五万人のうち、正規の従業員は三千四百四十五万人。パート・アルバイト、契約社員、派遣社員などの非正規従業員は千五百十万人になります(二〇〇二年十―十二月平均)。
非正規従業員の雇用者に占める割合は三割を突破、30・5%になりました。男女別にみると、女性は50・6%、男性は15・7%が非正規従業員です。
厚生労働省の労働者派遣事業調査によると、派遣労働者は二〇〇一年度、前年度より26・1%ふえて、約百七十五万人に急増しました。一九九四年度と比べると三倍強になります。
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「日本を戦争をする国にするな。メーデーを跳躍台に有事法案廃案の世論を広げよう」と意気込むのは、兵庫県尼崎市、宝塚市、伊丹市の労働者や市民団体でつくる阪神地域メーデー実行委員会の人たちです。
「『教え子を再び戦場に送るな』のスローガンの大切さを今ほど実感するときはありません」。県高教組尼崎支部(全教加盟)の桑纉c(くわた)誠支部長(47)は話します。
米英軍による無法なイラク戦争と軍事占領支配は、高校生の間でも大きな怒りがわきあがっている、といいます。
尼崎では一昨年九月の同時テロ以来、平和を守る課題で組織の違いを超えて労働組合や政党が何度も「一日共闘」を実施してきました。イラク戦争反対でも三度の共同集会を開いてきました。
こうした運動の積み重ねもあって昨年十一月、自公連合を破り、白井文さんが市長選で初当選しました。尼崎市職労(連合加盟)は過去二回、現職市長を推薦していましたが、今回は白井さんを支援。告示日には、兵庫自治労連委員長と自治労県本部役員がそろってあいさつし、地方自治を住民の手に取り戻す共同の力が広がりました。
小中学校の教職員でつくる尼教組(全教加盟)の上山俊一委員長(53)は「反戦平和への運動と合わせて、『三十人学級の実現』など父母や教職員の願いを実らせる状況がグンと広がりました。メーデーには、女性部が平和や教育、さまざまな要求をうろこに書いたこいのぼりを会場に登場させます」と語ります。
尼崎地区労連の山口周三議長(62)はいいます。「戦争反対の運動を『利敵行為』と攻撃した公明党の冬柴幹事長の地元で平和とくらしを守る運動を広げ、有事法制阻止の声を鳴り響かせたい」
「若者は正規社員になれない、いつでも首切りされる時代になる。こんな労働法制改悪を、青年は許さない」――。「青年労働者にかかわる大問題」と、全国労働組合総連合(全労連)青年部が四月二十八日、「労働法制改悪反対」を求める国会要請行動に取り組みました。北海道や大阪など、全国から二十四人が参加しました。
「有期雇用が三年に延びるのはいいように聞こえるけど、使用者の都合にあわせて、ますます不安定雇用を増やすだけ。若い私たちにとって大きな問題ですね」というのは、札幌市内の保育園で保育士として働く岡秀子さん(32)=北海道労連青年協議会議長=。
民間の保育園は、いまでも半数近くがパートや臨時職員。正規の職員と仕事の内容は同じでも、賃金や労働条件に大きな差があるといいます。
「いつ解雇されるかわからない有期雇用では、職員も落ち着いて働けないし、結局は子どもたちや利用者にもいいサービスが提供できなくなる」と、危機感を募らせます。「若い人たちに急いで知らせます」と話していました。
「使用者や政府は、『多様な働き方を求める若者のニーズにこたえる』というが、正社員になりたくても採用がない現実がある」と指摘したのは、生協しずおか労働組合書記次長の利波民樹さん(32)。「非正規の労働者の問題と思っていたら大間違い。ねらいは、正規社員や、これから働く若い人たちの労働単価を切り下げること。非正規の人たちと一緒に運動を広げたい」と語りました。
要請参加者は、地域で労働法制改悪の中身を急いで知らせ、運動を広げていくことを確認。東京・新橋駅前で「労働法制改悪反対」「有事法制は廃案に」と宣伝しました。
ドイツの今年のメーデーの呼びかけは、失業保険の改悪など社会保障改悪反対と米国の戦争政策反対です。
四月にシュレーダー首相は財界の意向などを受け、財政赤字を理由に失業保険給付期間の大幅削減、病気休業補償金の削減、小規模企業の解雇規制緩和など労働者側の負担を重くする「社会福祉国家の建て直し」計画案を打ち出しました。
従来は与党、社会民主党を支持しているドイツの各労組はこれにいっせいに反発。ドイツ労働総同盟(DGB)はシュレーダー首相のメーデー集会招待はとりやめなかったものの「保守の選挙公約とそっくり。首相は経営者側に半分、屈した」(ゾンマー議長)と批判。金属産業労組(IGメタル)はシュレーダー首相支持の見直しを検討しはじめました。DGBは五月一日のメーデーを起点にこの「改革案」への抗議行動を展開します。メーデーでは「改革はイエス、社会保障制度の解体はノー」のスローガンを掲げます。
左翼政党の民主的社会主義党(PDS)は「社会政策の後戻りにストップ」とメーデースローガンにうたって、社会保障の獲得成果と労働者の権利擁護を掲げる一方、米国の戦争政策と米国中心の世界秩序に抵抗を呼びかけています。またドイツ共産党(DKP)も軍拡・侵略政策と社会保障解体は結び合っているとして、今年のメーデーで平和政策を要求します。(ベルリンで片岡正明)
フランスでは年金制度改革をめぐる論議が正念場を迎えるなかでメーデーを迎えます。
年金制度改革を今年前半の最重要課題の一つと位置づける政府はこの間、労組や経営者との協議をおこない、四月下旬にようやく具体的な提案を公表しました。これに全国レベルの労働協約を結ぶ権限(代表性)をもった七労組のうち六労組が直ちに「反対」の共同声明を発表。五月十三日の統一した全国スト・デモも決定され、「熱い五月」が予想されています。
政府提案の主な内容は、保険料納付期間を二〇二〇年に向けて徐々に延長するとともに、賃金にたいする年金額の比率を低下させるというもの。最有力労組の労働総同盟(CGT)の試算によると、「改革」終了時点で受け取る年金額は20%ないし30%も低下することになります。
六労組は共同声明で「社会的、公共的支出を削減する意図にだけ基づいた措置」だと政府提案を厳しく批判し、労働者の声を反映させる改革実現に向けて決起を呼びかけています。
年金問題とともに、イラク問題も大きな課題になっています。CGTはメーデーの呼びかけの第一に「平和と国際法の尊重」を掲げました。
この間、イラク戦争反対の先頭に立ってきた平和運動全国評議会は、労組のこの姿勢を歓迎し、「平和の文化」をアピールする機会としてメーデーに合流する方針を明らかにしています。(パリで浅田信幸)