2003年4月30日(水)「しんぶん赤旗」
“裁量労働制(注)をやめたい”――こんな声がNEC(東京都港区、金杉明信社長)の管理職から相次いでいます。NECといえば、昨年10月に裁量労働制「新Vワーク」を社員8000人もの規模で導入し、適法性に疑いあり、と本紙で報じたばかり(19日付5面)。導入から半年もたたないうちに、矛盾があらわれたかたちです。
「全員、裁量労働制適用除外としたい」との意見が続出したのは、NECの東京・府中事業場で、所属社員が数百人のある事業部です。各部の部長のうち、半数近くが同制度の適用除外を求めました。
裁量労働制は、あらかじめ労使がきめた労働時間を働いたとみなす制度。みなし時間にあたる残業代相当の手当を支払えば、実際に労働者が何時間働いても、企業は不払い残業で摘発される恐れがなくなります(深夜・休日を除く)。
NECが「業務効率化」を目的に導入した裁量労働制にたいし、部長が異議を唱えるには一定の覚悟が必要です。同社では、査定によって管理職の降格は珍しくなく、一時金がゼロだった人も少なからずいます。
それでも部長が声をあげたのは、よほどの理由があるからです。
その一つは、「全員がみなし残業手当時間(月二十時間)を超えている」「ほとんどが二十時間はオーバーしている」という指摘です。
「新Vワーク」は、一日一時間(月二十時間)の残業代が手当額。しかし、職場は朝八時半に出勤し深夜から明け方に及び、手当分をはるかに超える長時間の労働が横行しています。
二つに、「現状の管理方法は、何時間残業しているか、正確に判断する方法がない」「労働基準監督署から労働時間の提示を求められても回答できない」との懸念です。
裁量労働制であっても、過重労働による健康障害を防止するため、使用者は労働時間の管理が義務付けられています。しかしNECは、一般労働者には行っているICカードなど客観的な勤務時間のデータによる管理を、裁量労働制「新Vワーク」適用者には除外しています。まるで、証拠を残さないかのようにです。もし労基署から手入れがあった場合、部長は、直接責任が問われる立場です。懸念するのは当然といえます。
さらに「部の業務は本人の裁量に委ねる部分はあっても、きめられた手法に沿って業務を遂行する部分が多く、(法が求める)対象者の趣旨と一致しないことが多い」と裁量権がないことをあげています。部長自身が、適法性を疑っていることを示しています。
「新Vワーク」は、ニセ裁量労働制「Vワーク」によるサービス残業を、労基署に摘発されて導入したものです。対象労働者も、手当額もまったく同じ、導入規模は前例のない広範囲なもので、関係者から適法性が疑われていました。例えば、企画・立案業務が対象の「企画業務型裁量労働制」は、導入対象が原則本社に限定されているため、一社あたり平均は六十六・四人ですが、NECでは一千人に及びます。
ある技術職の労働者は指摘します。
「こういう声が多くあがること自体、『新Vワーク』が法の定める裁量労働制ではなく、残業代を逃れるごまかしだと管理職自身も疑っている証拠だ。職場では精神疾患で休みがちの労働者も目立っている。本当に違法性がないか、労基署はきっちり調べてほしい」
政府は今国会に、企画業務型裁量労働制をホワイトカラー全体に拡大する労働基準法改悪案を提出しています。連休明け早々に審議入りする見通しです。
(注)裁量労働制は、仕事の性質上その方法を大幅に労働者に委ねる必要があって、仕事をすすめる手段や時間配分について使用者が具体的な指示をしない業務(専門業務型は「具体的な指示をすることが困難な業務」)であることが大前提です。