2003年4月30日(水)「しんぶん赤旗」
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失業率過去最悪の中、自民、公明の与党は雇用保険法改悪を強行しました。小泉「構造改革」で失業者を増やす一方、失業手当を削減。五月一日から実施されます。審議は衆院でわずか四日、参院で三日でした。あまりに冷たい政治です。
【失業手当カット】
雇用保険が一番頼りにされるとき、なぜ給付カットか。政府は「失業給付と再就職時の収入との逆転を避け、受給者の再就職を阻害しない」、つまり再就職先の賃金より失業手当が高いとなかなか再就職しないからだと説明します。再就職後の厳しい賃金条件を、給付水準の引き下げの口実にするもので、失業者の生活保障の根本を崩す考え方です。
失業前の賃金が月三十六万六千六百円(ボーナスを除き年収約四百四十万円)以上の人への給付は、賃金の60%から改悪後は50%に大幅削減。最低でも月額三万数千円、給付が減ります。教育費や住宅ローンなどを抱える中高年失業者にとって、耐えがたい打撃です。
削減は「主に高賃金層」と政府はいいますが、実際には低賃金層も直撃。失業前の賃金が月十二万六千三百円以上の人は、すべて給付減の対象です。二十代も月千―数千円の給付減です。
【給付30日短縮も】
倒産・解雇による失業の場合、給付日数は現状維持か延長です。三十五歳以上四十五歳未満、勤続十年以上の正社員は三十日延長。パート労働者も勤続五年以上は三十―六十日延長され、正社員と同水準となります。
問題は、「自己都合」で退職した正社員への給付日数を短縮することです。勤続五年以上は一律に三十日短縮。「希望退職」の名のもとにリストラが横行し、「自己都合」といっても事実上は解雇された失業者がたくさんいるという現実を見ない改悪です。
この給付日数削減により、失業給付を受ける実人員は月平均で六万人も減ることになります。
雇用保険給付が切れる前に正社員(常用雇用)に再就職した場合、特例として支給されてきた「就職促進給付」は廃止され、パートや派遣などに再就職した場合でも同様の特例支給を行う「就業促進手当」が創設されます。これにより国の負担は一千億円減ります。
【保険料アップ】
保険料は賃金の1・4%(労使折半)を二年後から1・6%(1・8%までの弾力条項付き)に引き上げます。保険料は二〇〇一年に0・8%から1・2%に、昨年十月に1・4%に上げたばかり。四年間に三度も引き上げ、負担は二倍に増えることになります。
政府は、「今回の改正で失業率が5%台の半ばまでは雇用保険を安定的に運営できる」と説明して、1・2%に引き上げました。ところが失業率が5%半ばの今、「雇用保険の安定運営のため」といってまたもや引き上げようというのです。
雇用保険財政の悪化は、何より不況による賃下げ、失業増で保険料収入が落ち込んでいるためで、政府の失政が招いた財政悪化です。さらなる負担増、給付減は悪循環を招くだけです。
政府のいうように、多くの失業者は手当がもらえるから再就職しないのではありません。仕事そのものが極端に少ないのです。東京では、一般の求人倍率は〇・六七倍(三月)。求職者百人に六十七件の求人という厳しさです。中高年層はさらに厳しく、四十五歳以上は〇・三八倍、五十五歳以上は〇・二四倍です。
政府がやるべきは、解雇を規制し、雇用を拡大すること、失業者に少しでも安心感と未来への希望を与えることです。
雇用保険制度に関していえば、国民負担増ではなく、国庫負担の引き上げこそ必要です。国庫負担は、二年前の制度改定の際、14%から25%に引き上げられました。しかし、制度発足時には国庫負担は三分の一でした。高度成長で失業者が減少したという理由で、四分の一まで引き下げたのです。雇用保険法には三分の一まで国庫負担を引き上げる条項もあり、雇用情勢が最悪の今こそ発動すべきです。(坂井希記者)