2003年4月28日(月)「しんぶん赤旗」
アジアだけでなく北米や欧州にも広がった新型肺炎(重症急性呼吸器症候群=SARS)の感染は、世界保健機関(WHO)の二十六日の発表で二十八カ国・地域に拡大、のべ感染者数は四千八百三十六人、死者数も二百九十三人に達し、各国の市民生活や経済にも大きな影響を与えています。
昨年十一月、中国広東省から広まった新型肺炎の感染はほぼ中国全土に拡大しそうな勢いです。
五月一日から中国のゴールデンウイークが始まり、すでに帰省ラッシュが始まっています。農村部へ感染が拡大すれば、医療体制の不備、衛生環境の劣悪さなどから深刻な事態になる可能性があります。北京市は二十六日、出稼ぎ農民の宿舎改善などを提起し、さらに規制を設けて農民工や学生などの移動を少なくしようとしています。
新型肺炎が全国的な問題になったのは、今月初めの衛生相記者会見から。感染が香港などを通じて世界に広がり、海外からの批判におされて中国が公開に踏み切ったのが実情です。公表の遅れの理由としては三月の全国人民代表大会(全人代)開催などもあがっています。
三月の全人代で選出された新体制は、民主の強調と報道の改善、とくに国民の関心事を報道するよう要請した方針などを示しました。新型肺炎にたいするたたかいは政府の活動の「重中の重」と位置づけられましたが、初動の誤りが致命的となっています。
国務院に対策本部が設置され、各省などあらゆる段階の行政にもSARSにたいする予防治療を第一の任務とするように要請されました。北京では感染者の隔離、感染場所の閉鎖など厳しい措置が取られています。学校の休校、買いだめと必需品の値上がりなど、市民の生活にも影響が現れています。
経済への影響では観光、ホテル、交通などにすでにその兆しがみられます。広東交易会での成約状況も低調だと伝えられ、商務省が支援措置を実施するまでになっています。日系企業も生産や販売で影響を受け始めています。(北京で田端誠史)
SARS対策を協議する東南アジア諸国連合(ASEAN)の緊急首脳会議が二十九日、バンコクで開かれます。これには、感染源とされる中国の温家宝首相も出席します。首脳会議に先立ち二十六日、クアラルンプール郊外で開かれたASEANと日中韓三国の保健相会合では、感染国での渡航前検査、患者の接触者の域内追跡態勢などを盛り込んだ共同声明が採択されています。
ASEAN諸国で感染者が最も多いシンガポールのゴー・チョクトン首相は十九日、「SARSの感染拡大を阻止できなければ、わが国は建国以来最悪の危機に直面するだろう」と危機感を表明。同国では、最大の生鮮食品卸売市場で三人のSARS感染者が確認されたため、同市場が閉鎖され、職員ら約二千四百人が自宅待機を命じられています。国際空港では、到着客が通るだけで体温測定ができる赤外線カメラが設置されました。タクシーは、空気がこもると感染の可能性が高くなるとして、窓の開放を指導されています。
シンガポールとマレーシアの医療省当局者は十六日、SARS対策などで協議し、両国国境を越えた感染を防ぐため作業委員会を設置することで合意しました。両国間の境を越えて通勤する労働者は、一日約九万人といわれます。(ハノイで北原俊文)
ベトナム外務省はすでに「ベトナムでの新型肺炎の感染は封じ込められた」と発表、事実上の終息を宣言しており、医療省も近々、終結宣言を出すと伝えられます。
ベトナムでは八日以降、新たな感染者は出ておらず、世界保健機関(WHO)ハノイ代表部も二十五日、「今後数日の間に新たな症例が出なければ、感染地域指定が解除される最初の国となる」と声明しました。ベトナムが早々と「封じ込め」に成功したのには根拠があります。
第一に、情報公開が早かったこと。感染が確認された直後から、新聞やテレビはその事実を報道し、国民に予防を訴えました。
第二に、WHOに早期に報告し、国際的な協力、支援を求めたことです。その対外連携姿勢は、WHOも高く評価しています。
第三に、長期の戦争の体験から、また日常的な熱帯性感染症に対処する必要から、迅速に対応する用意が政府にも国民にもあったことです。
第四に、「治療より予防」の方針が徹底されたことです。特別対策委員会は、感染者との接触があったとみられるすべての人の追跡調査を行いました。感染源のベトナム・フランス病院を訪問した人を調査し、十二省にまたがる百三人の名簿を作成しました。
これらの相乗効果がSARS感染拡大を抑え込んだといえます。(ハノイで北原俊文)
「世界保健機関(WHO)は間違った結論を下した。トロントは安全な町だ」。二十五日、オタワで記者会見したカナダのクレティエン首相は、カナダ最大の都市トロントへの渡航自粛勧告を出したWHOを批判しました。
カナダではアジア地域以外では最大のSARS感染者が発生しました。
人口五百万人のトロントはカナダ経済の中核都市で、観光業も盛ん。多民族で構成される町で、市中心部には世界最大規模の中華街があります。SARSは中国、香港から戻った中国系住民によって運ばれたとみられています。
SARSの影響は深刻で、ホテルや会議場の予約はキャンセルが相次ぎ、ラストマン市長は「トロントの観光業に打撃を与えている」とWHOへ怒りをぶつけます。
大リーグ・トロント・ブルージェイズの本拠地、スカイドームでの試合は、米国側からの観戦ツアーが軒並み取り消され、観客が確実に減っています。ブルージェイズのゴドフリー会長は二十三日、「これまで十六万二千人がスカイドームに訪れたが、SARSに関して何も問題は発生していない」として試合を継続することを明らかにしました。(ワシントンで遠藤誠二)