2003年4月27日(日)「しんぶん赤旗」
個人情報保護法案は政府案、野党案の二つが提案され、徹底した審議が求められていたにもかかわらず、政府・与党は二十五日、衆院個人情報特別委員会で、採決をごり押ししました。とりわけ、自衛官募集リスト事件で政府案の重大な欠陥が露呈したにもかかわらず、成立を急いだ与党の責任がきびしく問われます。(深山直人記者)
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政府案は昨年、「表現・報道の自由を脅かす」と批判を浴びて廃案になり、「修正」して出し直してきたものでした。
ところが、個人情報を取り扱う民間業者を関係大臣が監督する仕組みはそのまま。適用除外となる「報道目的」かどうかを判断するのは関係大臣であり、表現・報道の自由を侵害する構造は変わっていませんでした。
これにたいし、日本共産党など野党四党の対案は、大臣による恣意(しい)的な運用をやめさせるために行政から独立した第三者機関を設け、そこが判断することにしました。
なぜ、第三者機関にしないのか、この間の審議で小泉首相は「行政改革の流れに反する」と、個人情報保護とは筋違いの口実で拒否しました。
逆に政府案を支持する専門家からさえ、独立した監視機関は国際標準だとして「早く導入できる時期がくるよう期待する」(堀部政男・中央大学教授)との声があがり、野党案のすぐれた特徴が鮮明になりました。
野党案が明記したような思想・信条などの「センシティブ(慎重に扱うべき)情報」を収集禁止する規定が政府案にはありません。その問題点は、発覚した自衛官適齢者リスト事件で浮き彫りになりました。
市町村が本人の了解もなく自衛隊にたいして、住所、氏名はおろか健康状態まで情報提供していたのは、センシティブ情報について収集を原則禁止し、「適正取得」を課す規定がないためです。
センシティブ情報について小泉首相は「類型的に定義するのは難しい」と拒否しました。
しかし、この規定は諸外国で設けられ、国内でも経済産業省など各省の個人情報保護ガイドライン(指針)でも明記し、個人情報保護条例を制定している自治体の六割で設けているものです。
「なぜ国ができないのか」との質問に細田博之IT担当相は、「事例が書いてないから甘くなるものではない」などとまともな説明ができませんでした。
政府案が、個人情報の取り扱いに本人が関与できる「自己情報コントロール権」の立場をとっていないために、基本的人権や個人の利益より行政や企業の都合が優先される問題点もはっきりしました。
政府案では、集めた個人情報を目的外に利用することも「相当な理由」があれば許されます。
行政職員による不当な取り扱いがあっても、「職務以外の目的」だとみなされなければ処罰されません。「職務」かどうかは大臣の判断となるため、処罰の実効性はきわめて弱いといわざるをえません。
昨年発覚した防衛庁リスト事件のような問題が起きた場合に罰則対象になるのか。だれもが思う疑問にたいして小泉首相は、「どのような事実認定がなされるかによる」と処罰を明言できず、行政機関の暴走にたいする歯止めにならないことが明らかになりました。
この点でも、個人情報が収集の目的以外に使われる場合、第三者機関である個人情報保護審査会に諮問され、是非を決める仕組みの野党案の優位性が鮮明になりました。
審議では、国民の権利より行政や民間企業の都合を優先する姿勢が際立ちました。
自衛官適齢者リスト問題では、不当な個人情報収集をしながら「さもいけないことをしているかのようにいわれる」(赤城徳彦防衛副長官)と反省もありません。
日本共産党が「募集リストの電子ファイル化は総務大臣への届け出義務違反だ」と追及すると、答弁は「人事ファイルだから」→「一年内に破棄しているから」→「電子ファイルでなく文書だ」→「印刷後に消去している」と二転三転。責任逃れの奇弁を重ねました。
「個人的には健康情報の提供ぐらいならいい」(片山虎之助総務相)というにいたっては、個人情報を扱う当事者能力なしといわれても仕方ありません。
個人情報保護という国民の権利にかかわる法案について浮かび上がった重大な問題点をそのままにして、早期衆院通過を図ることは許されません。自衛官適齢者リスト事件の全容解明とともに、徹底審議をつくして抜本的に見直すべきです。