日本共産党

2003年4月16日(水)「しんぶん赤旗」

失業者の生活脅かす

制度の目的覆す雇用保険法改悪


 国会で審議されている雇用保険法改悪案の成立がねらわれています。失業者に重大な影響を与える改悪の主な問題点を考えます。

生活の安定を脅かす給付削減

 改悪のひとつは、雇用保険の被保険者だった労働者が失業時に受け取る基本手当の削減です。坂口厚生労働大臣の答弁によると、月収十二万六千三百円以上の人はすべて手当削減の対象とされることから、影響は広範な受給者に及びます。

 給付率でみると、その下限は従来の60%から50%へ引き下げられます(六十歳未満)。削減率は前職の賃金水準によりますが、影響の大きい人では27%にもなります。この削減は住宅ローンや教育費の支払いなどを抱える中高年のサラリーマン層を直撃するものです。

 雇用保険制度の目的は、法律の第一条でうたわれているように失業者の「生活の安定」にあり、その給付率は一九四九年以来、半世紀以上も60%の水準が維持されてきました。それだけに、これが一気に10ポイントも引き下げられれば、失業者の生活に多大な打撃を与えることは必至で、制度の目的も脅かされかねません。

解雇配慮しない給付日数の改定

 所定給付日数は、常用労働者とパート労働者の区分がなくなり、倒産・解雇による離職とそれ以外の理由による離職という区分のみとなります。これにより、パート労働者や就職困難者には日数が延長される人がいる一方、五年以上被保険者だった常用労働者で倒産・解雇以外で離職する人は、三十日も給付日数が短縮されます。

 倒産・解雇に該当しない場合でも、企業のリストラ・人減らしが横行するなか、働きつづけることを希望しながらも離職を余儀なくされる人は大勢います。自己都合だからといって給付日数を削減することは、こうした失業の実態をみないもので、事実上の解雇者を切り捨てるものです。

 いま問題なのは、現行の給付日数が失業の長期化の実態に対応できていないことです。昨年十一月の総務省の調査によると、失業給付を受給した人のうち、給付日数が切れた後も求職活動を続けている人は六十七万人にものぼり、給付を受けている失業者の六十九万人とほぼ同水準に達しています。失業者の実態をみるなら、給付日数の延長こそ検討すべきです。

 重大なのは給付削減の理由です。政府は、比較的給付水準の高い失業者に対する給付が、再就職時の賃金水準より高いことを「逆転現象」だとして問題視し、失業者の「再就職意欲の喚起」を図るために給付削減をおこなうというのです。坂口厚生労働大臣は「受給者の再就職を阻害しないよう設定することが適当であることから、高賃金層を中心に給付水準の見直しを行う」と答弁しています。

 こんな論法で給付を削るとはとんでもないことです。そもそも雇用保険の失業給付額は、その失業者がもつ労働力の価値である前職賃金を基準に算定される原則です。再就職時の賃金水準をもちだして給付削減の根拠にすることは、制度を著しくゆがめるものです。

 失業者は給付がもらえるから就職しないのではありません。就職口がないからできないのです。給付があるから就職しないかのようにいう坂口大臣の姿勢は、雇用悪化をもたらしている政府の責任を省みないばかりか、失業者のせいにする無責任な論法です。

国庫負担は削る保険料は引上げ

 さらに改悪案には、雇用保険の保険料引き上げが含まれます。失業給付にかかる保険料は昨年十月に1・4%に引き上げたばかりですが、これを二年後に原則1・6%(労使折半)に引き上げます。本則の保険料率に加え、雇用保険会計の状況に応じ国会承認なしに0・2%の範囲の増減を可能とする「弾力条項」があるため、二年後からは最大で1・8%まで保険料率の引き上げが可能になります。

 政府は失業者が増加し、雇用保険会計が悪化したので保険料率の引き上げが必要だといいます。ところが、二〇〇三年度予算をみると、国庫負担は昨年より一千七十八億円も減らされているのです。

 これまでも国庫負担は一九九二年から二〇〇〇年まで大幅に削減されてきました。この削減も会計悪化を招いた原因でした。リストラの支援と不良債権早期処理による中小企業つぶしで失業者を増やしてきた責任は政府にこそあります。失政のツケを保険料率引き上げの形で国民に負わせることは許されません。

労働力の安売り失業者に促す

 今回の雇用保険見直しでは、失業者の「早期再就職の促進」を掲げます。失業者に対する再就職の支援は重要な課題ですが、ここにも大きな問題があります。

 今回、新たにパートなど常用以外の再就職であっても一定以上の給付日数を残して再就職する人に対して、支給残日数に応じて手当を支給する「就業促進手当」が創設されます。これは手当をつけることで所定給付日数を残して再就職するよう失業者を促すものです。

 従来も再就職への手当はありましたが、「安定した職業」への再就職を促進するためのもので、対象は常用の再就職をした人でした。これをパートや臨時に広げることは、わずかな手当で不安定な就職口であっても早く就職させ、失業者に労働力の安売りを促すものです。このような「早期再就職」促進の政策は、労働市場全体に低賃金・不安定雇用を広げてゆくことになりかねない点で重大な改悪です。

 法案は失業給付のほか、高年齢雇用継続給付、短期特例被保険者の求職者給付、雇用継続給付等の見直しを含む合計三千百億円の給付削減と二年後からの保険料引き上げによる三千億円の負担増を国民にもたらす大改悪です。「セーフティーネット」を言いながら、実際には重大な困難に直面している失業者に痛みをおしつける小泉内閣の「くらし切り捨て」の政治姿勢をうきぼりにしています。(国会議員団事務局 阿戸知則)


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