2003年4月3日(木)「しんぶん赤旗」
政府・与党は、来年度予算成立後の国会で、有事法案とともに個人情報保護法案の成立を狙っています。臨時国会で廃案になった法案を修正しましたが、根本的な問題点はなんら解決していません。
修正法案は、世論の強い批判を受けたメディア規制の「基本原則」を削除しましたが、まだ報道の自由に介入するつめを残しています。
例えば報道機関は規制の対象外ですが、あくまで報道目的の場合だけです。しかも「報道」を「客観的事実を事実として知らせること」とあえて定義しているように、政治家の疑惑報道を本人が「事実ではない」と否定すれば、報道と認められない恐れがあります。
しかも、報道目的なのか、報道に当たるかどうかを判断するのは主務大臣です。大臣の判断一つで報道への干渉につながりかねません。
ことは報道・表現の自由にかかわる問題であり、行政からの独立を強めた個人情報保護委員会を設置すべきです。
法案は、本来の目的である個人情報保護の点でも欠陥があります。
IT(情報技術)社会で、顧客データが流出するなどプライバシー侵害も多発しており、企業や行政機関から個人情報が流出し悪用されないのか、国民は不安をつのらせています。
ところが、政府案は個人情報の取得や利用、第三者への提供に本人が関与する「自己情報コントロール権」の規定が不明確です。
この権利は、欧州諸国では常識です。OECD(経済協力開発機構)の勧告は、情報収集は本人同意を必要とし、自分の情報の保有を確認し、情報の開示や修正、消去を請求できることを明確にしています。
「自己情報コントロール権」の保護を法案に明記すべきです。
国民の思想・信条をはじめ人権にかかわる「センシティブ情報」は、民間、行政機関を問わず、収集や利用を禁止するなど慎重な取り扱いが必要です。
行政機関の個人情報保護法案は、世論の批判を受けて罰則がつきましたが、まだ大きな問題があります。
個人情報の開示を本人が求めても、拒否できる項目が多すぎます。目的外の使用や他の官庁への提供も「相当な理由」があればよく、これでは使い回しされる恐れがあります。
罰則の規定も不十分です。防衛庁の個人情報リスト作成のケースを当てはめても、罰則が適用されるのかどうか疑わしい状況です。
もともと個人情報の保護法制は、住民基本台帳ネットワークの稼働の前提条件でした。昨年八月から始動した住基ネットは、この八月からは本格稼働する予定です。
住民から「個人情報が流出するのでは」と不安の声が出ているのに、個人情報の保護は欠陥だらけというのでは、国民への背信行為です。
与党が、これまで内閣委員会で審議してきた法案を特別委員会で審議するよう主張していることには、なんの合理的な理由もありません。ただ法案を通すための党略的な立場だけです。
国民生活にかかわりの深い法案を、重要な問題点はそのままに短い審議で強行するのはもってのほかです。野党四党がまとめた「個人情報保護法に関する野党四党の考え方」で示しているように、個人情報保護に真に役立つ内容に、法案を抜本的に見直すことを求めます。