日本共産党

2003年3月27日(木)「しんぶん赤旗」

イラク問題集中審議で首相を追及

参院予算委で 筆坂政策委員長の質問


 日本共産党の筆坂秀世政策委員長が二十四日の参院予算委員会集中審議で行った、イラク問題の質問(要旨)は次のとおりです。


首相 罪なき人々への配慮が必要

筆坂 現実には多数命を落としている

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質問する筆坂秀世議員=24日、参院予算委員会

 筆坂秀世政策委員長 世界がなぜイラク戦争に反対するか。最大の理由の一つは、罪なき人々への犠牲が避けられないということにあります。

 アメリカは「罪のない人々が犠牲にならないよう最大限努力する」と言っています。アフガン攻撃のときにもアメリカは同様のことを言っていました。しかし、実際にはどうだったか。

 ニューハンプシャー大学のマーク・ヘラルド教授が克明な調査論文を発表しています。それによると、二〇〇一年十月から二〇〇二年三月の半年間に、三千人から三千四百人の一般住民が命を落としている。

 なぜ、これだけ一般住民の犠牲が発生したのか。総理はこの点について、どう考えますか。

 小泉純一郎首相 大変痛ましい報告だと思いますが、戦争というものはいかなる形であれ、多くの人々に悲惨な結果をもたらすものであり、そういう点から、いかなる戦闘においても、罪のない人々に対して、攻撃がなされないような配慮が当然必要だと思う。

 筆坂 しかし、現実には一般市民が多数命を落としている。私はそこには二つの大きな理由があると思います。

 一つは、よく「ピンポイント攻撃」だ、「限定攻撃」だということが言われます。しかし、現実には不可能だと思います。

 現にアフガン攻撃では、アメリカ国防総省のもっとも甘い評価と言われるものでも、爆弾・ミサイルの15%が標的をはずれた。そして、病院や学校、民間住宅に当たったことは周知の事実です。

 「精密誘導兵器」と言われますが、その代表としてトマホーク・ミサイルがあります。そのトマホーク・ミサイルがイラクではなくてイランに四発着弾したと言われている。あるいは英軍機がアメリカのパトリオット・ミサイルに撃ち落とされる。こういう同士打ちも起こっている。

 ですから、「ピンポイント」なんていうことは実際にはあり得ない。だから、多数の被害者が出る。

 もう一つは、一般市民を巻き込む残虐兵器が使われている。

 例えば、アフガンでは、クラスター爆弾が使用されました。クラスター爆弾というのは、一つの親爆弾から二百ぐらいの子爆弾に空中で飛散する。(それで)広範な住民に被害を与える。こういうものが今回も使用されている。

 あるいは、湾岸戦争では劣化ウラン弾が使われました。今回も国防総省は使うと言っています。しかし、その結果どういうことが起こっているか。白血病だとか悪性腫瘍(しゅよう)。あるいは体や顔の一部が変形する。最初から脳がない子どもも出てくる。そういう先天的な障害を持つ子どもが多数産まれています。

 あるいは、アフガンでは「デージー・カッター」という超大型爆弾が使われた。だいたい直径五百五十メートルの範囲を強い衝撃波、あるいは熱風で、その範囲にいる生物を殺傷する。こういうものが使われた。

 今度はアメリカはMOAB、「モアブ」と呼ばれていますけれども、さらに巨大な爆弾を使う可能性もあると指摘されています。

 だからアメリカのフランクス中央軍司令官はどう言っているか。「戦争というのは非戦闘員が死傷するものだ」と。これは開き直りです。つまり、一般市民の犠牲を最小限に抑えるという保証はどこにもない。

 よく、「イラク復興支援」ということが言われるわけですが、「人の命の復興」ということはあり得ないわけです。

 私はここに世界が今度の戦争に反対する第一の理由があると思います。

筆坂 これは、まぎれもない先制攻撃だ

首相 「アメリカの先制攻撃」(と述べる)

 筆坂 今一つ、国連憲章に基づく平和の秩序が壊されるんじゃないだろうか、ここに世界の大きな危ぐがあると思います。

 国連憲章は、二度の世界大戦の上に立って、前文でも再びこういうことを起こしてはならないということを誓いつつ、戦争を違法なものとしてきました。その上で、武力行使ができるのを二つに限定してきました。

 一つは、どこか外国から攻撃を受けた場合に、自衛権を行使するという場合。もう一つは、安保理による決定があった場合。この二つにのみ限定してきました。

 ところが、今回の戦争にあたってのブッシュ大統領の演説を読んでみると、「敵に攻撃されて対抗措置をとるのは自衛ではない。それは自殺行為だ」と明言して、今度の軍事攻撃を開始しました。

 これは、まぎれもない先制攻撃論です。つまり、“相手にやられる前に先にやるんだ”という立場です。総理はこういう先制攻撃が、現在の国連憲章のもとで許されるとお考えですか。

 首相 まさにご指摘のとおり、(国連憲章では)自衛のための戦争、それと国連決議による戦闘が認められていると理解しております。

 ブッシュ大統領の“敵の攻撃を待ってからやるというのは、自衛でなく自殺行為”という発言は、一昨年の九月十一日のニューヨークでのテロが大きく影響していると思います。

 あのような形で、まず攻撃を待ってからやるという場合に、どのような悲惨な状況、またたくさんの犠牲者を出すかということも念頭にあったと思いますが、いずれにしても、私は国連において先制攻撃というのは認められていないと解釈しております。

 筆坂 いま総理は九・一一のテロのことをおっしゃいました。総理が今回のイラク攻撃にあたって国会で報告をされましたが、そのなかで総理はこう述べています。「一昨年九月十一日の同時多発テロ以来、国際社会はテロリストが核物質や生物兵器、化学兵器を入手した場合の恐怖を強く認識するようになった」と。

 これはその通りだと思う。問題は、だからイラク攻撃が許されるんだという見解につながっていると思うんです。私は、さっき言ったブッシュ大統領の言葉と、小泉総理が国会でなさった報告が、同じ論理の上に立っているんじゃないだろうかと(思う)。

 そして少なくとも、私が読み上げたブッシュ大統領の演説、「敵に攻撃されて対抗措置をとるのは自衛ではない。それは自殺行為だ」とは、先に攻撃するんだという先制攻撃の論理そのものです。

 総理も言われたように、国連憲章は先制攻撃を認めていません。そうしますと、ブッシュ大統領の発言は、国連憲章に違反する先制攻撃を明りょうに述べたということになるのではないでしょうか。

 首相 今回のアメリカの武力行使は、一連の国連決議に基づくものでありまして、決して先制攻撃というような考えではないと思っております。

 この現在の戦闘行為に対しては、大量破壊兵器、危険な化学兵器、毒ガス兵器、生物兵器等についてイラクが保有していない、廃棄したことを示すべきだということに対して答えてこなかった、いわゆる一連の(国連)決議を守ってこなかったところに原因があるのではないかと申し上げた。

 アメリカの先制攻撃を支持したわけではないということについても(「首相が『アメリカの先制攻撃』と言った」と委員会室がざわめく)、アメリカの先制攻撃ではなくて国連決議を順守したものだと、国連憲章に合致したものであるということを日本としては考えているからこそ支持している。

 筆坂 いま思わず「アメリカの先制攻撃」と総理おっしゃったんですが、私はもう何度も国連決議一四四一、六八七、六七八という話はうかがいました。しかし、それでは無理がある。今度の安保理は割れちゃったわけですよ。だから安保理の決定なしの、安保理の枠外の行動になったわけです。これは総理だってお認めになっているし、ブッシュ大統領も“安保理は役に立たない。だからアメリカがやるんだ”とおっしゃってるわけでしょ。

 (決議)一四四一、六八七、六七八というのは、ロシアも、あるいはフランスも賛成して作られたものです。ですからその解釈は当然各国が同じじゃなければならないわけで、アメリカだけが独断的に解釈できる権利はない。

 アメリカのブッシュ大統領の本音は、やっぱり先制攻撃なんです。

 アメリカは、例えば昨年九月の国家安全保障戦略でも「敵対的行動の機先を制し、あるいは阻止するために、必要とあらば、米国は先制的に行動する」と明確に述べています。

 こういう国家安全保障戦略に基づいて、現にいま、イラクへの戦争が行われているわけです。アメリカが代表して国連の枠外でやるんだ、そんな権利はアメリカには絶対ないということです。それは総理もお認めになりますでしょ。

首相 戦闘行為は国連憲章に合致したもの

筆坂 アメリカの一方的な言い分だけ、先制攻撃にまで日本は賛成… 最悪の事態に踏み込む

 首相 私は、はっきり言っているように、これはアメリカの先制攻撃ではない。共産党とは見解が異なるかもしれませんが、私は今回の戦闘行為というのは、国連憲章に合致した行為であると理解しております。

 筆坂 今、共産党と意見が違うとおっしゃいましたが、「(日本政府の見解は)世界中と違う」という声があがっていますよ。アメリカの先制攻撃戦略を知らない人はいないし、そして今度の戦争は、だからみんな危ぐの声をあげているのです。

 この論理というのは、アメリカが「この国はテロ国家だ」「ここは大量破壊兵器を持っている」と、何の証拠を示さなくてもアメリカが認定すれば、いつでも攻撃できるという論理なのです。

 しかも、今回アメリカは、“国連安保理は役に立たない”といって行動した。つまり、国連の枠外での行動だということをアメリカ自身が認めているということなのです。

 例えば、ケネディ大統領の補佐官をつとめたアーサー・シュレジンガー氏はこう言っています。この方は、先制攻撃を「予防戦争」と言っていますが、「予防戦争とは、米国が世界の裁判官と陪審員を兼務し、同時に死刑執行人になることを意味する」と。まったくその通りなのです。だって、国連安保理は役に立たない、その枠外で行動するのだというわけですから。

 私は、小泉首相が今度の戦争を支持することによって、いわばこれまでの、国連憲章に基づく国際秩序を根本からくつがえす、そういう世界にいま足を踏み入れつつある。ここはほんとうに真剣に考える必要があると思うのですが、首相、いかがでしょうか。

 首相 私は、アメリカの今回の攻撃は国連憲章に合致したものであると言っているんです。

 昨年の一四四一決議は、フランスも含めて、すべての国連参加国がイラクに対して大量破壊兵器を廃棄しなさいということについては一致して、見解を一にして、なおかつ、これが最後の機会を与えるということを言っているわけです。

 決してアメリカの先制攻撃、勝手な戦争ではないということを理解しているからこそ、日本はアメリカの方針を理解し、支持していると言っているのです。

 筆坂 それはアメリカの言い分だけなのです。同じ国連安保理で、常任理事国のフランスもロシアも中国も、そんな解釈には立っていないでしょう。国連決議がどう解釈されるか、決めた国連安保理事国が決めるのですよ。アメリカ一国が決められるという、そんな決議はないのです。アメリカの一方的な言い分だけを、首相はここでおっしゃっているだけなのです。

 私が思い出したのは、かつて橋本首相に「あなた方は戦後、アメリカの行う軍事行動に反対したことがあるか」と質問したときに、「一度もない」とおっしゃった。今、その最悪の事態に踏み込んでいる。これまでの比ではない。

 先制攻撃にまで日本は賛成する。国連憲章違反の無法な戦争にまで日本は支持する。ここまで落ち込んだ。私は、これは世界と平和に対する背信だと申し上げて、質問を終わります。


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