2003年2月19日(水)「しんぶん赤旗」
厚生労働省(坂口力大臣)が示した労働基準法「改正」法案要綱は十八日、労働政策審議会から答申を受けました。法案要綱は、労働分野の規制改革を掲げた小泉内閣と日本経団連の強い要求にこたえた内容です。
新設される解雇規定は、使用者は「労働者を解雇することができる」と、原則解雇自由を明記しました。同時に、例外として「客観的かつ合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合」は権利乱用で無効という、最高裁判決(日本食塩製造事件、一九七五年四月二十五日)の内容を示しています。
これについて、最高裁判決の内容が書かれたから前進であるかのような報道がされています。しかし問題の本質は、解雇を原則自由と打ち出した点にあります。
解雇をめぐる紛争はこれまで判例によって確立した解雇権乱用法理で判断されてきました。この法理は「解雇には正当な事由が必要」(最高裁判所判例解説)というのが原則です。法案は、この原則を逆転させています。原則と例外がくつがえると、実際の裁判で何が起こるのでしょうか。
これまでは、労働者が不当解雇であると主張すれば、使用者は正当な解雇であることを立証できなければ、敗訴する可能性が高かったのが通常です。
しかし、原則解雇自由では、解雇は権利乱用であることを労働者が立証できなければ、敗訴する危険が大きくなります。
また、労働界からつよい要請がある「整理解雇の四要件」(企業の維持・存続ができないほどの必要性、解雇回避の努力、労組への説明と了解・納得への努力、人選の合理性)は、入っていません。今日、リストラが横行し雇用不安が増大しているもとで、これらを法制化することこそ求められています。
解雇規定では、金銭解決問題が今回は見送られました。裁判で解雇が無効と確定したのちに、労使いずれかの希望で金銭による雇用契約の解消を裁判所に請求できるという内容です。
金銭解決制度は、無効な解雇にもかかわらず使用者が請求できる点に特徴があります。労働者保護を目的とした労基法の根幹に抵触しかねない上、解雇は無効と判断した裁判所が同じ労働者をクビにするという矛盾を裁判制度に持ちこむことになります。厚労省は強い批判をうけて今回は見送るものの今後検討を続けるとしており、復活の道を残しています。
そのほか、裁量労働制について、企画型裁量労働制の対象を本社に限定せず拡大し、導入要件を大幅に緩和しています。
労働時間ではなく仕事の成果で評価され、労使があらかじめきめた時間に基づいて賃金が支払われる裁量労働制。企画型裁量労働制の導入を審議した九八年、国会内外で「八時間労働制の原則を崩し、過労死をうむ長時間労働の温床になる」「ホワイトカラー全般に広がりかねない」と、つよい批判がまきおこり、きびしい規制がかけられました。
このため大企業は“ニセ裁量労働制”を導入し、勤務時間や仕事上の裁量権がない労働者を、わずかな手当で際限なく働かせました。これが違法なサービス残業として労働基準監督署から摘発され、是正せざるをえなくなっています。
導入要件の緩和は、大企業の強い要求にこたえるものです。
有期雇用では、契約期間の上限を現行一年から三年(高度な専門知識をもつ一部専門職は現行三年から五年)に延長するとしています。
企業に都合のよい不安定雇用を増大させるとともに、契約期間中に退職した労働者は、使用者から民事上の損害賠償を訴えられかねません。