2003年1月31日(金)「しんぶん赤旗」
「もう一つの世界は可能だ」をスローガンに、多国籍企業優先の今日の世界秩序の変革を求める世界社会フォーラムが、二十三日から二十七日までブラジル南西部のポルトアレグレで開催されました。大企業経営者や各国首脳が参加して国際経済問題を討議する世界経済フォーラム(ダボス会議)に対抗して二〇〇一年から開かれた同フォーラムは今年で三回目。現地で取材した菅原啓、浜谷浩司記者が、その意味を語り合いました。
菅原 今回のフォーラムの最大の特徴は、イラク攻撃反対が強く押し出されたことだ。昨年もアフガニスタンでの戦争に反対する声はあったが、大きな位置は占めていなかった。今年は開幕にあたり戦争反対を掲げたデモが七万人もの規模で行われた。イラク攻撃をテーマとした討論もさまざまに開かれた。
浜谷 最終日、全体集会が開かれたスタジアムに大きなシートが張られ、「平和」にあたる言葉が、ポルトガル語をはじめさまざまな言葉で書かれていた。最後の記者会見で、実行委員会代表は「戦争を拒否し平和を求める声がフォーラムを圧倒した」と特徴づけた。
菅原 日本の全労連の代表も参加し、米国に戦争中止を要求するとともにイラクにも国連決議履行を求めた。
浜谷 フォーラム参加者は地元ブラジルをはじめラテンアメリカ諸国の人が圧倒的に多い。ラテンアメリカの社会運動には、もともと反米感情が強い。そこに改めて火がついたという感じがある。
菅原 世界社会フォーラムは、もともと経済のグローバル化(地球規模化)が中心テーマだ。「もう一つの世界は可能だ」というスローガンも、多国籍企業の利益に沿ったグローバル化を、市民の利益に沿ってつくりかえるという意味が込められている。
浜谷 経済グローバル化についての議論でも、戦争という多数の生命が失われかねない事態が起きれば元も子もないという危機感があった。
経済分野では九月にカンクン(メキシコ)で開かれる世界貿易機関(WTO)閣僚会議が大きな焦点だ。WTOの民主的改革という観点から、カンクンで実現すべき課題が提起され、それに向けた社会運動の結集と各国政府への働きかけも行われている。フォーラムでも、そういう議論が行われた。
菅原 米国型資本主義の実態が、エンロンなどの大がかりな企業不正を通じて明るみに出た。新自由主義に基づく規制緩和が、こうした問題を生み出した。それがフォーラムに自信を与えたのではないか。ラテンアメリカでは新自由主義との対決・克服が長期にわたって議論されてきた。だが新自由主義の震源地の米国で、それが墓穴を掘っている。
浜谷 なるほど。しかし運動が力をつけ、自信を持っているとの印象を受けた。WTOの改革は極めて困難な課題だが、それに向けた目標や戦略を国際ネットワークのなかで確認してきている。
浜谷 世界社会フォーラムはダボス会議への対抗会議として始まった。だが三回目になり、「対抗」としての位置付けから脱皮し、独自の運動に発展してきている。他方で、運営の中心になる国際評議会のメンバーが固定しているなど、フォーラムのあり方が運動の発展に必ずしも見合っていないところもある。その改革は今後の課題だね。
菅原 もとはブラジルやフランスの運動がリードしたが、前回からアジアの発言力が増している。来年はインドで開催することが決定された。アジア社会フォーラムを開いた実績もある。
浜谷 それもアジアから何を発信していくかに行き着くのではないか。日本の民主運動がどうかかわるのかも問われるだろう。韓国の全国民主労働組合総連盟(民主労総)の人たちがよく準備してパネリストとして討論に参加し、韓国語での逐次通訳で発言していたのが印象に残っている。