2003年1月27日(月)「しんぶん赤旗」
ヘルメットで顔を隠した二人組が、突然、店内で無差別銃撃し、まきぞえの市民が血だらけで倒れる――。まるでマフィア映画のような事件が二十五日深夜、群馬県前橋市のスナックで起こり、暴力団と無関係の市民三人をふくむ四人が亡くなりました。一夜明けた現場付近の住民や被害者の家族らは、不安と怒りをあらわにしています。
前橋市で六人が死傷した発砲事件から一夜明けた二十六日、現場周辺住民の間に、市民三人が犠牲になったことへの衝撃が走りました。
現場は閑静な住宅街で、そのなかに商店が混在するような地域。現場から歩いて数分のところに小・中学校もあり、スナックのような飲食店は数軒あるだけです。
近くに住む妊娠中の女性(31)は「暴力団員らしい人が出入りしていたという話は聞いたことがあります。こんな目と鼻の先で事件が起きてびっくりしました。スナック前の道は通学路でもあるし、ほんとうにこわいです。一般の人まで巻き添えになるなんて」とからだを震わせていました。
年配の女性は「寝ていて事件には全然気づかなかった。おっかないね」と話していました。
「朗らかで周囲を明るくするような、とても優しい弟だった」―。発砲事件で亡くなった会社員大河原照次さん(50)の姉は二十六日、こう言って肩を落としました。姉によると、大河原さんは五人兄弟の末っ子。離婚後、一人で子どもを育てていました。姉は「一人でさみしくなると(スナックに)出掛けていたんだろう」と気遣い、「こんなことになってしまって…」とうつむきました。
同市小神明町の水石福治さん(53)の自宅には二十六日午前、近所の住人や会社の同僚らが次々と訪れました。
水石さんは娘と息子との三人暮らし。自宅を訪問した近所の荻原一さん(52)は「娘さんも息子さんも泣いていて言葉が出ないようだった」と語りました。近所の男性(70)は「気さくに誰ともしゃべる楽しい人だった」と話し、「まさかこんなことになるなんて」と。
同市三俣町の佐鳥初子さん(66)は、同市内の結婚式場でパートとして働いていました。仕事仲間を引っ張るリーダー的な存在だったといいます。
事件があったスナックから約五百メートル離れた自宅では二十六日朝、家人とみられる男性が「今は何も話せない」と言葉すくな。近所の人によると、佐鳥さんは夫や母らと四人暮らし。
前橋市三俣町のスナック「加津」で市民ら四人が射殺された発砲事件は、後藤邦雄元組長(55)が所属した団体が対立組織の幹部を射殺する事件があり、今回の事件は、その報復とみられます。
発端は、二〇〇一年八月十八日。東京都葛飾区白鳥の四ツ木葬祭場で行われていた住吉会系向後睦会幹部の通夜で、稲川会系大前田一家組員が向後睦会会長=当時(52)=ら二人を射殺。大前田一家には、当時、後藤元組長が幹部として所属していました。
抗争事件は約一カ月後、住吉会と稲川会が和解。この際、後藤元組長らが「絶縁」などの処分を受けました。しかし、その後も〇二年三月には、大前田一家最高幹部宅に火炎瓶が投げ込まれ、銃弾数発が撃ち込まれました。さらに、昨年十月六日、群馬県白沢村でゴルフ場帰りの後藤元組長が四人組に銃撃され、右肩を負傷する事件も起きました。いずれの事件も犯人は特定されていませんが、四ツ木葬祭場事件に端を発した連続報復事件の可能性が強いとみられます。
今回の銃撃事件も、一連の報復事件の延長にあるのどうかが焦点で群馬県警捜査本部は慎重に捜査を進めています。