2003年1月26日(日)「しんぶん赤旗」
小泉内閣がすすめようとしている国立大学の統廃合にたいして、各地で反対運動が広がっています。北海道と高知県の運動を紹介します。
北海道では、道教育大学の再編問題と道内六単科大学の再編統合問題があります。
道教育大学釧路校では、大幅縮小から同校を守ろうという運動が地域ぐるみで広がり、約一カ月で九万二千人分の署名運動、シンポジウム、議会決議が相次ぎ、大学も案を変更しました。今も、五つの分校のある各地域と大学内で議論と運動が続いています。
道内六単科大学の再編統合問題は、昨年十二月の六大学学長懇談会で、統合問題は当面は断念することになりました。その背景には学内外の世論と運動があります。
室蘭工業大学の場合、同大学職員組合(橋本忠雄委員長)は、問題を全学と地域ぐるみの運動にしようと力を注ぎました。国立大学の法人化が、大企業に役立つ一部の有力大学は残すが、地方の大学の「リストラ」「再編統合」が進められること、自治体と地域住民が大きく影響を受けることを書いたビラを五万枚つくり、室蘭市と登別市に全戸配布しました。ビラの裏面に署名用紙を印刷し、広く団体や連合の組合を訪問しました。
すぐ反応があったのは学生マンションの大家さん。組合事務所にきて「われわれは二十年賦で建てている。大学がどうなるかわからないなんて。がんばれ」と激励しました。そこで組合は、下宿の大家さんや商店会によびかけて「地域懇談会」をもちました。懇談会で「大学のリストラなどとんでもない。市議会や国会に訴えよう」との声が出され署名運動が広がっていきました。
連合加盟の二十二組合、四十三団体が署名に協力し、高砂商店会(米田有邦会長)は商店会として取り組んでいます。
学内では組合ニュースを十二回発行、全構成員に配布し、「問題点がよくわかった」と組合に入っていない人からも声がかかるなど、たたかう雰囲気が高まっています。
党室蘭市議団は、教育基本法改悪反対や三十人学級実現ともあわせて、地域懇談会などの運動を強めようとしています。(南里元昭・党北海道委員会大学問題対策委員会責任者)
昨年二月、高知大学付属学校・園の保護者を中心に、広く個人や団体に呼びかけながら「高知大学に教育学部と附属校園を残す会」が結成されました。
以来、知事や県議会への要請、高知県選出の国会議員への要請などを重ね、存続を求める県議会決議が可決。土佐の教育改革に取り組んでいる高知県としても、教員養成にとっても教育学部は大事だという認識を広げてきました。
四月からは、「残す会」として文部科学省に存続を求める署名活動に取り組み、六月二十五日に橋本知事といっしょに九万三千人分を超える署名を提出。国会では、要請を受けた議員が衆参両院の委員会で質問にたち、内容は「残す会」にそのつど報告されて運動にいかされてきました。
中でも、高知大学教育学部の卒業生でもある春名真章衆院議員の国会論戦での、「土佐の教育改革は高く評価している」「プランをもって押しつけたり指示しているわけではない。地元の民意を大切にして議論を」「教育学部統合と付属校園の廃止は直結しない」という文部科学省答弁は、運動を励ますものとなっています。
教育学部の卒業生でつくる如泉会からも、昨年末に文部科学省に存続を求める一万数千の署名が提出されました。
付属中学校のPTA会長の萩野祐二さんは、「教育学部をなくすなど、とんでもないという思いで運動を続けています。付属校園の関係者のきずながこの一年でとても強くなりました」と話します。
「残す会」会長の島田幸代さんは、「運動が目に見えるよう、四百本作って立てているのぼり旗も十カ月の間に色あせたので、新しく注文しました。しっかりと研究実践する教育学部と付属校園はなくしてはならない存在。教育学部の役割、存在意義を県民参加で議論することがとても大切です。会として、一月末に大学にでかけ、広く声を聞く場を持つよう要望書を提出することにしています」と話しています。(中根佐知・党高知県委員会常任委員)
「地域の教育学部を守れ」の運動は、北海道や高知県のほか、群馬、青森、岩手、山形、福島、栃木、福井、奈良、山口、滋賀、香川などでも起こっています。
地元の教育関係者や経済界、父母ら広範な人々の署名運動などによって、県議会や各自治体議会で政府への意見書が可決され、知事と文部科学省との交渉が行われるなどしています。
当初、文部科学省は二〇〇二年度中に「再編・統合を策定する」としていました。しかし、国民の運動の前に、「地元の理解と協力を得つつすすめる」(昨年の国立大学長懇談会での遠山敦子大臣あいさつ)、「期限を限って計画をということではない」「統合しないからといってペナルティーを科すものではない」(日本共産党の石井郁子衆院議員への説明)との立場を表明し、計画通りにすすんでいません。
日本共産党は、昨年四月、「国民の立場で大学改革をすすめるための提案」を発表し、全国の大学関係者や地域の諸団体と懇談をすすめてきました。国会質問は二十回を重ね、十五道県の議会で取り上げています。「守る会」との共同もすすめながら、「教育学部存続に努力したい」(福田昭夫・栃木県知事)などの積極的な答弁を引き出しました。
いじめや不登校など教育をめぐる問題が深刻化し、全国で三十人学級導入という県民要求が大きくなっています。
岩手大学教育学部の存続を県知事に申し入れた斉藤信・党県議は「本県で小中高三十人学級を実施すれば、新たな教員二千人が必要なんです。文科省には、岩手の教育の灯をなくす権利はない」といいます。
昨年十二月、八千五百人の署名を学長に提出した際、学長から「教育学部を存続させていく」との決意を聞いた弘前大学教育学部を守る会の柴田文男事務局長は、いいます。
「小泉首相の『大学改革』は、私たちの要望に反するものだと思っていたが、『教育学部を残せ』の一点で活動したことの成果で、とても驚いたし、うれしい」(学術・文化部 浅尾大輔記者)