2003年1月24日(金)「しんぶん赤旗」
「全国的規模で千八百時間をめざせば、人減らしどころか雇用の場が広がる」――異常な長時間労働の是正に政府が全力をあげて取り組むよう求めた日本共産党の山口富男議員の衆院予算委員会での総括質問(二十三日)。テレビ中継を見た人から「大変よかった。好感が持てました」などの感想が寄せられました。
山口議員 トヨタや関連会社では、労働者が年間平均で二千四百三十四時間も働いている。政府発表の年間平均千九百九十二時間より四百四十二時間、(二十四時間で割って)十八日分以上長い。異常ではないか。
小泉首相 実に長い。率直にそう感じる。
トヨタ自動車と関連会社が集中する愛知県豊田市の豊田労働基準監督署が行った調査で、七万七千九百三十九人が働く五十四事業所が回答。フレックスタイム(時差出勤)では平均で年二千五百五時間、普通勤務では最大三千六百五十時間にものぼるという驚くべき実態です。
厚生労働省は昨年二月、長時間労働による健康障害防止のため「過労死防止通達」を初めて出しました。厚労省のパンフレットでは、残業が月四十五時間を超えると、健康障害の危険が「徐々に高まる」として時間外労働の短縮を求めています。先の調査では、普通勤務の時間外労働が月平均六十六時間と、「残業基準」を大きく超え、回答のあった事業所の四分の三が未達成です。
豊田労基署に家族から寄せられている悲痛な訴えを紹介(別項)しながら、「ことは命にかかわる。放置できない」と迫る山口氏。「労基署は、(調査)結果を“闇の中”にあった長時間労働が表に現れたと言っている。こうした事態が現に起きている以上、これを正させるのは政治の責任ではないか」と主張しました。
山口議員 (NEC社長の訓示は)トヨタ式のやり方を広げようという訓示だ。こんなことを放置していたら、もっとひどいことになる。
坂口厚労相 (トヨタのケースは)特殊な一企業の話であって、特別なケースとしてみていかなければならない。
「特殊」な例と強弁する坂口厚労相に、山口氏はNEC社長が「トヨタにならえ」とばかりの発言をしていることを紹介(別項右下)。「政府自身がきちんと是正に乗り出すべきだ」と批判しました。
坂口氏は「組合との間に(労使の残業)協定があるのだから、組合もしっかりみてもらわなければ」などとのべ、規制を労使に委ねる姿勢を示しました。
政府は、大臣告示で時間外労働の限度基準を年間三百六十時間と定め、労使が特別に残業協定(三六協定)を結べば、これを超えて働かせることができるとしています。
山口氏は、「実際には特別協定が乱用され、年間千時間を超える残業さえ認められる事態が起こっている」と指摘。「残業を四十五時間以内に減らそうという通達を出しながら、これに反する仕組みを変える必要がある」とのべ、政府の責任で時間外労働を規制するよう求めました。
坂口厚労相は、「(三六協定の)特別な事情は臨時的なものに限られるので、常時(長時間残業が)おこなわれるのは、この特別な事情には入らない」と答えざるをえませんでした。
山口議員 失業者が三百五十万人、高校生や大学生が就職先がなくて困っている。政府が音頭をとって労働時間を削る方向で仕事を始めたら、サービス残業根絶の通達も過労死防止の通達も、そのなかで力を発揮する。
首相 時間を削って人を増やしてくれた方がいい。給料との関係もあるが、千八百時間に向かって各企業も積極的に努力するよう指導していかなければならない。
政府はこの十年間、労働時間を千八百時間内にすることを三回も閣議決定しています。
豊田労基署の調査で判明した労働時間はこれより六百三十四時間も長いもの。政府目標まで減らせば、二万七千三百人の雇用が新たに生まれます。
山口氏は、トヨタ自動車が五年間で三千七百人の人員削減をおこなってきたことにふれながら、「政府が掲げる千八百時間を本当にやろうとすると、人減らしどころか雇用の場を広げることになる。そういう大きな力になる」と強調。長時間労働を生み出すサービス残業の根絶をはじめ、長時間労働の是正、労働時間短縮に国をあげてとりくむよう求めました。
豊田労基署に寄せられた家族の訴え
「息子の帰りが毎日遅い。深夜二時、三時になることもある。息子の体が心配で私も眠れない」「夫の帰りは、平成十二年(二〇〇〇年)ころからいつも真夜中。残業時間は年間で千五百時間くらいになる。いつ倒れてもおかしくない状態が続いている。何とか助けてほしい」
NECの西垣浩司社長の年頭訓示
「トヨタ自動車は乾いた雑巾(ぞうきん)をさらに絞るような努力を続けています。それに比べると、当社はまだ雑巾に水がたっぷりと染み込んでいる状態であり、利益を搾り出す余地は十分にあります」