2003年1月20日(月)「しんぶん赤旗」
センター試験が始まって、入試の季節がやってきました。頭が痛いのは高い学費。日本育英会の奨学金が、そんなときの手助けです。その奨学金を「教育ローン」のようにしようというのが小泉内閣。通常国会で法案を出そうとしています。学生たちはいいます。「お金のあるなしで、勉強できなくなるのは嫌だ!」
松山城をのぞむ愛媛大学。昨年十二月二十日、学生有志が「日本育英会奨学金制度を守ろうネットワーク」をつくりました。
呼びかけた学生の一人、大嶋慶太さん(22)=法文学部四年=は、「育英会奨学金をなくさないで」と学生が各地で声をあげているニュースを新聞で知りました。「愛媛大学でも、声をあげられる場所をつくりたい」と、社会科学研究サークルの後輩などに声をかけました。
大嶋さん自身が、育英会の奨学生。入学したときから月八万円の利子つき奨学金を借りています。「これがなければ、僕は暮らしてこられなかった」といいます。
大嶋さんは六人家族の長男。松山市内の六畳一間のアパートで一人暮らし。福岡県の実家には、浪人している弟(19)や、高校受験を控えた妹(15)がいます。
家賃は三万二千円。卵やそば、ほこりなどにアレルギーがあるので、病院に通っています。費用は月に五千円ほどかかります。無駄遣いをしたくないので、「つい買ってしまいたくなるコンビニには、当然いかない」。財布には千円以上入れないようにしています。
つらかったのは、父親がリストラされたことでした。父親は大手商事会社の子会社で働いていました。二年前、バブルのつけを払わされる形で「希望退職」。翌年、ホテル職員の職を見つけますが、給料は三分の一に減りました。
「まさかリストラが自分の問題になるなんて。体の調子もよくないのに、大学をやめて働けと言われたらどうすればいいのか、と思いました」
追い打ちをかけるように“育英会奨学金なくなる”の報。
日本育英会を廃止して、新たな学生支援機関(独立行政法人)をつくるのが小泉内閣の方針です。文部科学省の検討会議「最終報告」(昨年十二月)によれば、奨学金を借りたい学生は「債務保証機関」に保証料を支払わなければなりません。同機関が保証するかどうかを審査したうえで、新法人が学生に奨学金を貸与することになります。
「これでは、お金がないと奨学金を受けられなくなりそうです。僕だって、お金のあるなしで勉強を中途半端にしたくないですよ」
大嶋さんは、歴史を学びたくて大学に進みました。興味があったのは、「人間は、どうやってここまでの社会を築いたのか」。十一〜十二世紀の中国経済を卒論のテーマに選びました。貨幣の流通が可能になった理由を研究しています。
「愛媛大学で奨学金を受けているのは学生全体の25%、およそ二千人くらい。制度の改悪で困る人がたくさんでる、ということです」
「守るネット」は手伝ってくれる学生も含め、二十人ほどで宣伝や学習会にとりくんでいます。代表の植村宏文さん(22)=法文学部三年=は奨学生ではありませんが、育英会廃止は人ごとではない、「学びの場を奪ってはいけない」と活動の先頭に立っています。
「守るネット」は署名やひとことカードを集めています。昼休み、食事中の学生に声をかけ、授業の前後に先生の許可を得て訴えます。趣旨を話すと多くの学生が快く応じるといいます。寮に住む学生のなかには一人で五十人分集めてきた人も。署名は三百人分、ひとことカードは百五十人分に達しています。
植村さんは昨年末、全日本学生自治会総連合(全学連)の国会要請に参加し、日本育英会をなくさないで、と訴えてきました。「本当に腹がたった」出来事があります。
「自民党の秘書に『私たちの声を聞いてください』とお願いしたら、『うちの方針に合うものなら聞きます』というんです。学生の声を聞かずに学生の方針が決められるんですか」
「誰もが受けられる奨学金制度にしてほしい」――。千葉大学一年の森田洋子さん(20)=仮名=は訴えます。同大学では、学生と教職員がいっしょになって、育英会奨学金制度の廃止反対、拡充を求め、署名や学習会に取り組んでいます。
森田さんは奨学金を受けてはいません。「本当は、借りられたら楽なんだけど……」
無利子の奨学金は大学ごとに割り当て人数が決まっています。希望しても必ず受けられるとは限りません。「有利子奨学金だと、借りた分以上のお金を何年もかけて返さないといけない」と森田さん。不況、就職難で将来の見通しが立たない現在の学生にとって、育英会奨学金は「借りたくても借りられない状況がある」といいます。
育英会奨学金の拡充をもとめる署名は短期間に千百人分が集まり、JR西千葉駅前には、列ができました。「親がリストラされた」「家族が入院して経済的に苦しい」…。訴えは深刻さを増しています。
森田さんは、大学に入ってから家計が厳しくなった、という両親の嘆きを聞いています。「親に負い目を感じてしまいます。本来、学びたい人は誰でも大学に来られるようにすべきではないでしょうか。奨学金は、誰でも安心して受けられるようにしてほしい。教育は、よりよい社会をつくる私たち若者への投資なのですから」
三輪定宣・千葉大学教授(日本育英会の奨学金制度廃止に反対し、拡充を求める各界連絡会議会長)の話
昨年十二月、文部科学省は「新たな学生支援機関の在り方について」(最終報告)を発表し、特殊法人の日本育英会を廃止し、「学生支援機関」という独立行政法人をつくることを明らかにしました。
そこでは「長期借入金、債券発行による市場での資金調達等を適切に行いうる機能、体制を構築」し、「十八歳以上自立型社会の確立を目指し…『機関保証制度』をできるだけ速やかに導入する」としています。
要するに奨学金への公的支出を抑え、銀行など民間業者が学生に金を貸しやすくする。「教育ローン」の市場開放・拡大策です。また学生本人に保証料を払わせ、金がなければ借りられなくする。不払いや遅延には滞納金の取り立てを民間業者に委託する。高校生の奨学金は都道府県に責任を負わせ、大学院の返還免除は基本的に廃止。
小泉内閣はこうした方向で通常国会に法案を出そうとしています。これでは、公的資金による貸与制の崩壊です。学生の弱みにつけこんで金を貸し、利子までつける。これはもう、奨学金ではありません。
「将来の知的インフラに備える」のが教育の目的のはずです。今を生きる青年にとって学習権とはかけがえのない基本的人権です。ですから奨学金は貸与ではなく給付が基本です。貸与では低所得層の場合返済さえ難しい。バイトでなんとか四年間をしのぐという学生も多いのです。
教科書や専門書が買えないなど、経済的理由で学力が伸び悩む学生もいます。いまや教育は家庭の総力戦となっています。低学力は経済的困難とリンクしています。小泉「改革」は、低所得層の切り捨てです。
奨学金は、一部の問題のように見えて、これは社会全体の問題です。
一人の子どもを育てるのに使う費用は三千五百万円とも言われています。無駄な公共事業や軍事費に使うお金の一部を教育に回せば、親が学費の負担から解放され、消費の需要増にもつながるでしょう。少子化の加速にも歯止めがかかるのではないでしょうか。
経済とのかかわりをみても、奨学金の拡充こそが、日本の再生と転換のキーポイントになると思います。今の政治は個人的な問題に還元してしまって、社会的バックアップの視点がありません。青年には「誰でも大学にいける」という夢や、学ぶことの喜びを与えるのが、政治のあるべき姿ではないでしょうか。
日本民主青年同盟が十三日の成人の日を中心に全国で実施した新成人アンケートには、二千人から回答が寄せられました。このなかで、八割の人が「いまの政治や社会に不満」と答え、「社会について学びたい」「自分も何かしたい」と考えている人が合わせて七割近くにのぼっていることがわかりました。
政治に望むこと(複数回答)のトップ5は「税金のムダづかいをやめる」「景気の回復」「就職難の解決」「消費税の減税」「福祉・年金の充実」。また、「激動のなかでどんなことを知りたいか」のトップ3は、「就職難・景気回復はどうしたらできるか」「弱い人が大切にされる社会はどうしたらできるか」「環境問題は解決できるか」でした。
小泉内閣を「支持する」は26・8%、「支持しない」は23・3%、「わからない」は49・9%でした。
いっせい地方選挙に「行きたいと思う」が46・9%、「行きたいとは思わない」が11・9%、でした。
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