2019年11月14日(木)
大嘗祭 天皇を宗教儀式で権威づけ
国民主権・政教分離に反する
政府は天皇「代替わり」に伴う中心的儀式として「大嘗祭(だいじょうさい)」を行います。天皇が神と一体になり、民を支配する権威を身につける儀式と古来から位置付けられてきたものです。明らかな宗教上の儀式であるにもかかわらず、事実上の国家的行事として27億円もの多額の公費を注ぎ込みます。憲法の国民主権、政教分離の原則に照らして、どういう問題があるのでしょうか。(竹腰将弘)
戦前と同じ儀式再現
政府は今回の大嘗祭で、戦前の天皇「代替わり」での即位儀礼を定めた「登極令(とうきょくれい)」(1909年=明治42年制定)にある「宮中三殿」に関する儀式など六つの儀式を、まったく同じ次第で行います。(表1)
その中心になるのは「大嘗宮(だいじょうきゅう)の儀」です。政府はこの儀式のためだけに使う大嘗宮という建物を、皇居・東御苑の約90メートル四方の敷地に新たに造営しました。儀式終了後には直ちに解体されます。
そのための費用は、解体費を含め19億700万円にのぼります。
大嘗宮には二つの神殿(東方に悠紀殿=ゆきでん、西方に主基殿=すきでん)が左右対称に置かれ、二つの神殿で、時間をずらして同じ儀式が行われます。
儀式では、斎田(さいでん=神に供える米をつくる田)で収穫された米などの食べ物や酒を、天皇家の祖先神とされる天照大神(アマテラスオオミカミ)に天皇自らが供え、拝礼、お告文(つげぶみ)をのべ、その後、神に供えたのと同じものを食べるといいます。
大嘗祭は、戦前の日本で、神権的天皇像を国民に知らしめるための儀式でした。
戦前の国定教科書は「大神と天皇とが御一体におなりあそばす御神事であって、わが大日本が神の国であることを明らかにするもの」(『初等科修身』四)と子どもたちに教え込みました。
しかし、日本国憲法のもとで登極令は廃止され、戦後改定された皇室典範(こうしつてんぱん=皇室についての法律)からも大嘗祭は削除されました。
戦後の日本が否定した神権的・絶対主義的天皇制下の儀式を、そのまま現代に再現することは、まったくの時代錯誤です。
三権の長 「服従」誓う
大嘗宮の儀は14日夕刻から始まり、同日深夜には「悠紀殿供饌(きょうせん)の儀」が、15日未明には「主基殿供饌の儀」が行われます。
この長時間にわたる儀式の間、内閣総理大臣をはじめとする三権の長、閣僚、衆参両院の議員ら700人近くが参列(表2)、大嘗宮内の幄舎(あくしゃ)という建物で待機します。
天皇が神殿の中で神と一体となる儀式を行い、国家機関の枢要なメンバーがこれに拝礼し「服従」を誓う―「服属儀礼」としての大嘗祭のあり方そのものが、国民主権とは相いれないものです。
司法も「違反」否めず
30年前の「平成の代替わり」のさいにも、大嘗祭をめぐってさまざまな議論が起こりました。
政府は1989年12月21日の閣議口頭了解で「宗教上の儀式としての性格を有すると見られることは否定することができず」と、その宗教性を一部認め「大嘗祭を国事行為として行うことは困難である」としました。その一方で、大嘗祭は「公的性格があり、大嘗祭の費用を宮廷費から支出することが相当である」として、皇室の私的費用である「内廷費」ではなく、公費である「宮廷費」からの多額の支出を行いました。
そして今回も、「(前回の)整理を踏襲」(18年4月3日、閣議口頭了解)するとしました。
前回、大嘗祭への公費支出は政教分離原則に反するとして、国の行為の違憲性を直接問う国家賠償請求訴訟が各地で提起されました。
大阪高裁は1995年3月9日に賠償請求はしりぞけたものの「少なくとも国家神道に対する助長、促進になるような行為として、政教分離規定に違反するのではないかとの疑義は一概に否定できない」という判決を出し、確定しています。
日本共産党は、こうした大嘗祭のあり方は、「国民主権の原則にも、政教分離の原則にも明らかに反しています」(18年3月の「天皇の『代替わり』にともなう儀式に関する申し入れ」)と批判。天皇の「代替わり」にともなう儀式は、「憲法にもとづく国民主権と政教分離の原則にかなった新しいやり方をつくりだすべきです」(同)と求めています。
大嘗祭(だいじょうさい)関係の主な儀式(表1)
大嘗祭前一日鎮魂の儀 13日
大嘗祭当日神宮に奉幣(ほうへい)の儀 14日
大嘗祭当日賢所(かしこどころ)大御饌(おおみけ)供進の儀 14日
大嘗祭当日皇霊殿(こうれいでん)神殿に奉告の儀 14日
大嘗宮(だいじょうきゅう)の儀
悠紀殿(ゆきでん)供饌(きょうせん)の儀 14日
主基殿(すきでん)供饌の儀 15日
大饗(だいきょう)の儀 16、18日
いずれも「大礼関係の儀式」として行う(宮内庁資料から作成)
「大嘗宮の儀」の参列者(表2)
内閣総理大臣、元内閣総理大臣および副総理ならびに以上の者の配偶者
国務大臣および副大臣
内閣法制局長官および内閣官房副長官
検査官、人事官、公正取引委員会委員長、原子力規制委員会委員長、検事総長、次長検事、検事長
衆議院の議長、元議長、副議長ならびに以上の者の配偶者、常任委員長、特別委員長、憲法審査会会長、情報監視審査会会長および政治倫理審査会会長
衆議院の議員40人(特記した議員および副大臣である議員を除く)および事務総長
参議院の議長、元議長、副議長ならびに以上の者の配偶者、常任委員長、特別委員長、調査会長、憲法審査会会長、情報監視審査会会長および政治倫理審査会会長
参議院の議員21人(特記した議員および副大臣である議員を除く)および事務総長
国立国会図書館長
最高裁判所長官、元最高裁判所長官および最高裁判所判事(長官代行)ならびに以上の者の配偶者、最高裁判所判事、高等裁判所長官および最高裁判所事務総長
各省庁の事務次官等で宮内庁長官が指定する者
都道府県の知事および議会議長
市および町村の長および議会議長の代表
栃木県および京都府の農業協同組合中央会会長
栃木県および京都府の斎田の大田主およびその配偶者
各界の代表
その他別に定める者 (宮内庁「大礼委員会」資料から作成)