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2019年9月22日(日)

「全世代型社会保障検討会議」の危険

 少子高齢化時代に対応する社会保障制度の改革を検討するとして、政府は20日、安倍晋三首相が議長を務める「全世代型社会保障検討会議」の初会合を首相官邸で開きました。その危険なねらいと、国民の願いとの矛盾が早くも透けてみえています。(藤原直)


上から目線

財界人と政府系識者並べ

 「安倍内閣にとって全世代型社会保障に向けた改革は最大のチャレンジだ」。会議で首相はこう力を込めました。

 会議では、年金、医療、労働、介護など社会保障全般にわたる「持続可能な改革」(首相)を検討し、年末に中間報告、来年夏に最終報告を取りまとめるとしています。

 ところが、会議の構成員には、肝心の労働界の代表や医療、介護の現場や受給者の代表が誰一人参加していません。目立つのは、国民目線からかけ離れた、経団連の中西宏明会長や経済同友会の桜田謙悟代表幹事ら複数の財界人、政府内の関係審議会会長ら社会保障や労働法制の改悪をけん引してきた顔ぶれです。

 政府は会議を非公開とし、事後の概要説明でも閣僚以外の発言者の氏名を伏せましたが、会議後にはメンバーの中西経団連会長が「高齢者の負担のあり方について大いに前向きに検討したらいいのではないかと述べた」と明かしたり、清家篤・社会保障制度改革推進会議議長が「給付と負担の問題は、当然、中心的な課題になっていく。打ち出の小づちはない」と語る様子がNHKニュースウェブで報じられました。

 「検討会議に当事者がいない」という複数の記者からの指摘に対し、全世代型社会保障改革担当相として議長代理を務める西村康稔経済再生相は、メンバーは代表する各審議会などの議論も踏まえて発言するし、関係者には与党や自分の方でもヒアリングするなどと釈明。事務方は「これまでも政府の社会保障を全体で議論するときにステークホルダー(利害関係者)は入っていない」などと主張しました。しかし、労働者の代表はいないのに財界の代表や政府の代弁者だけが入っている矛盾は明らかです。

痛みズラリ

給付削減と負担増が主眼

 今後の議論の焦点となるのが、介護や医療をはじめとする社会保障の給付削減と負担増です。政府が期限の一つと考えているのは、人口の多い団塊の世代が75歳以上になり始める2022年度。その前に社会保障費を徹底して抑制する仕組みを強化しようとしています。

 介護保険では、▽介護サービスの利用計画「ケアプラン」の作成費用への自己負担導入▽要介護1、2の生活援助サービスを市区町村の裁量で行う「総合事業」に移す「給付外し」▽介護サービス利用時の自己負担(原則1割)の2、3割負担の対象者拡大―などが、来年の介護保険法改定に向けて社会保障審議会の介護保険部会で検討の俎上(そじょう)に載せられています。

 続いて21年の法案提出が想定されている医療では、▽75歳以上の窓口負担(原則1割)の原則2割への引き上げ▽薬剤自己負担の引き上げ―などがねらわれています。

 20日の検討会議でも「有識者」から「医療では『大きなリスクは共助、小さなリスクは自助』という保険本来のあり方に立ち返ることが必要だ」などと「給付と負担の見直し」を求める意見があがったといいます。

 ただ、首相は会議での発言でも、わかりやすい負担増や給付減にはふれず、西村担当相が終了後の会見で紹介した「主な議論の内容と結果」も、高齢者の就労拡大などにかかわる話ばかり。国民からの批判を意識してなのか、西村氏は「私自身は財政の視点からのみで必要な社会保障をばっさり切ることはまったく考えていない」とまで語りました。

 政府側も「給付と負担については今後より議論していくことになる」(西村氏)と認めているとはいえ、ここには、“改悪隠し”とともに、総選挙を視野にいれた安倍政権と国民とのせめぎ合いがあります。

 検討会議に入っていない日本医師会の横倉義武会長は18日の会見で「日本医師会は国民の健康と生命を守る立場から国民が必要とする医療・介護を過不足なく受けられるようしっかりと主張していく」と改悪の動きをけん制しました。

表:安倍政権がねらう社会保障改悪のスケジュール

社会保障「解体」検討会議だ

全日本民主医療機関連合会事務局次長 林泰則さん

写真

(写真)全日本民主医療機関連合会事務局次長 林泰則さん

 この会議の最大の目的は「給付と負担」の抜本的な見直しであり、社会保障「解体」検討会議といってよいと思います。「全世代型」という言い方には、今の社会保障は「給付は高齢者中心、負担は現役世代中心」として世代間の対立をあおりながら、結局は全ての世代に痛みを押し付けていく狙いが込められています。

 これまで政府は社会保障費の「自然増」分の削減など断行してきました。今回の検討会議を司令塔にして、官邸主導でこれまで以上の規模と内容で社会保障費の削減を徹底的に進めようというものでしょう。財務省の財政制度等審議会が75歳以上の医療費窓口負担の2割化や介護保険の利用料を原則2割にするなど、国民に激しい痛みを押し付けることを繰り返し提案してきましたが、こうした内容がかなり取りこまれていく危険があります。

 20日の検討会議では、「小さなリスクは自助」という発言もありましたが、これは例えば軽症の医療は保険適用外にするなど、公的給付を徹底的に切り縮めていこうとする考え方です。さらに、全世代型社会保障担当大臣を経済再生大臣が兼務しており、社会保障の削減とともに、経済成長をめざして社会保障の営利化を推進していく体制が敷かれていることも特徴です。

 国は、「制度の持続可能性の確保」を理由にして制度の改悪を進めてきましたが、あらためて誰のための、何のための「持続可能性なのか」が問われなければなりません。この間の社会保障「改革」の土台には、2012年に制定された「社会保障制度改革推進法」の中で、国民の生存・生活を保障する責任は国にあるという憲法25条が示す社会保障の基本的な考え方が“国民の助け合い”に転換されてしまったことがあります。すでに現在、来年の通常国会に向けて、ケアプラン有料化などの介護保険改悪の検討が先行して進められています。国が押し付けてくる社会保障改悪の中身を一つ一つ阻止する運動に取り組みながら、あらためて憲法25条の根本から社会保障制度を問い直すことが必要だと思います。

 (聞き手 前野哲朗)


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