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2019年6月15日(土)

2000万円報告書「もうない」と言っても…

消せぬ「年金不足」 隠ぺいやめ改革を

 年金だけでは老後の生活は成り立たない。平均的な世帯で2000万円貯蓄せよ―。金融審議会の「報告書」をめぐって国民的な衝撃が走る中、「100年安心」といって年金の大削減を進めてきた自民党の深刻な自己矛盾が露呈しています。10日の参院決算委員会で安倍晋三首相は「国民に誤解や不安を与える不適切な表現だった」と火消しに躍起となりました。11日には麻生太郎金融担当相が「報告書」を「受け取らない」と発言。12日には自民党の森山裕国対委員長が「政府は受け取らないと決断したわけですから。この報告書はもうない」として、野党の衆参予算委員会開催要求を拒否しました。しかし、いくら政府が“抹殺”しようとしても年金不足の現実は変わりません。現実の隠ぺいではなく改革こそ必要です。(中祖寅一)


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(写真)安倍首相らに質問する小池晃書記局長=10日、参院決算委

「報告書」は公文書

 森山氏が「もうない」と言っても、金融庁のホームページ上には「高齢社会における資産形成・管理」という表題で、今も「報告書」(3日付)は掲示されています。14日の衆院財務金融委員会で金融庁の三井秀範企画市場局長は「審議会の報告書は公文書になる」と認めています。これを“抹殺”することなどできません。

 また「報告書」が示した30年で2000万円不足という試算は、もともと厚労省調査からつくった数字です(第21回「市場ワーキンググループ」への厚労省提出資料、4月12日)。「不適切な表現」と繰り返す安倍首相も、数字自体を否定することはできません。

 もともと麻生金融担当相は、「報告書」の発表を受けて「100まで生きる前提で、退職金で計算してみたことあるか。普通の人はないよ」(4日)などと述べて「報告書」の内容を当然視し、“老後に備えて貯蓄を”という本音を語っていました。これが政治問題化して、急転直下、「受け取らない」と態度を変化させたのです。

自民公約も否定?

 問題の「報告書」は、麻生氏が4日の会見で語ったように、「人生100年時代」を見据えた自助努力による「資産形成」のために「NISA」(少額投資非課税制度)による投資を促しています。

 自民党が発表した参院選公約「政策BANK」でも、「人生100年時代の到来を踏まえ、国民が生涯にわたり安定的な資産形成を行うため、『つみたてNISA』をさらに普及する」と明記。「人生100年時代に対応した年金制度の構築に向けて…私的年金の活用促進等を進めます」とも述べています。“公的年金では足りない。私的年金や資産運用こそ必要だ”というのは、自民党の方針そのものなのです。

 もし金融審議会の「報告書」を否定するなら、自民党は自分自身の公約をも否定するのかが問われます。

選挙目当ての対応

 こうした安倍政権・自民党の狼狽(ろうばい)・混乱の背景には、深刻な政治的政策的行き詰まりと焦りがあります。第1次安倍政権(2006~07年)崩壊の引き金が「消えた年金」問題での国民の怒りの爆発でした。これは今も大きなトラウマとなっています。参院選挙を目前にして、消費税の10%増税強行姿勢への批判が強まるもと、年金問題でも批判が噴出するのを恐れる「1強」の脆弱(ぜいじゃく)さが露呈しています。

 二階俊博幹事長は11日、党本部に緊急に記者を集め、金融庁に「抗議」したと説明する中で「選挙を控えておるわけですから、そうした方々に迷惑を許すようなことのないように注意したい」と、選挙のためのなりふり構わぬ対応であることをあけすけに語りました。

 しかし、自民党内からはこうした対応に「逆効果だ」との声も漏れます。議員の一人は「臭いものにはフタと見透かされる。森友・加計を国民に思い出させた」と述べます。森友・加計疑惑で繰り返された虚偽答弁や公文書の改ざんに加え、今度は目の前にあるものをなかったことにするという強権です。

消費税増税に頼らず年金底上げできる

共産党の対案

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(写真)安心できる年金制度を求める署名に応じる人たち=14日、札幌市西区

 今の年金制度では老後の安心は成り立たないという深刻な現実が改めて突き付けられました。「(報告書の)受け取りを拒否しても、年金が足りないという現実は変わらない」(日本共産党の志位和夫委員長、13日の日本記者クラブでの会見)のです。「この現実を受け止めて、貧しい年金を安心の年金にすることこそ政治の役目」(志位氏)であり、年金制度の立て直しが参院選の大争点に急浮上しています。

 日本共産党の小池晃書記局長は10日の参院決算委員会で、「『100年安心』と言っていたのに、人生100年になったら『年金はあてにするな』『自己責任で貯金せよ』というのは国家的詐欺に等しいやり方だ」と安倍首相を批判。「では、どうすればいいのか」と激高して反問する首相に小池氏は、全ての低年金者にまずは月5000円、年間6万円の年金底上げを実施し、年金額の上昇を物価上昇より低く抑えて実質削減する「マクロ経済スライド」は廃止するべきだと主張。大企業や富裕層への行き過ぎた減税をやめれば、消費税増税に頼らなくても財源は確保できると対案を示しました。

 自民党議員の一人は「空気が一気に変わる可能性がある。妻がテレビを見ていて『小池さんが一番わかりやすかった』と言っていた。批判ばかりでなく対案を示せるところが強い」と話します。


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