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2019年5月19日(日)

きょうの潮流

 3人の父に2人の母をもつ女の子。次々と移り変わる家族のかたち。血のつながらない親の間をリレーされていく物語とは、さぞかし不幸なのではないか▼そんな先入観をひっくり返す小説です。なにしろ主人公が「困った。全然不幸ではないのだ」と言い切るところから始まるのですから。今年の本屋大賞にも選ばれた瀬尾まいこ著『そして、バトンは渡された』は、人のぬくもりとたくさんの愛に包まれています▼他者に向ける優しいまなざし、相手への思いやり、無償の愛。自己ばかりで周りを傷つけ、人間不信を募らせる出来事が相次ぐ昨今、人が人をいとおしいと感じられる一冊です▼いま国立劇場で前進座が公演している「佐倉義民伝」。凶作つづきのうえ年貢の割り増しに困窮する農民のため、身を捨てて将軍に直訴する主人公の姿が胸にせまります。仲間とのきずなや妻子との別れ。揺れ動く心や悲痛な叫びがひしひしと伝わります。希望を込めた結末とともに▼「義民のように他人や人道、大義のために行動する人生観よりも、一個人の利益や都合が優先される。その背中合わせにあるのが、自己責任だと思う」。演出進行の中橋耕史さんが、パンフレットのなかで語っています▼自分じゃない誰かのために。自分とは違う人のことに想像をめぐらす。そんな思いがあふれた社会はどんなに明るい光が満ちているか。先の小説はいいます。自分より大事なものがあるのは幸せなこと。他者を慈しみ、大切に思える愛情のバトンです。


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