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2017年11月15日(水)

米国抜きTPP11 強引に装った「大筋合意」のつけ

日本農業への打撃はTPP12以上になる

東京大学教授 鈴木宣弘さん(農業経済学)

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 米国をのぞく環太平洋連携協定(TPP)署名11カ国は11日、ベトナム・ダナンでの閣僚会合で「大筋合意」した新協定(略称CPTPP)の内容を発表しました。この合意をどう見るのか、東京大学教授の鈴木宣弘さん(農業経済学)からの寄稿を紹介します。( )内は編集局の注です。


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(写真)すずき・のぶひろ 1958年三重県生まれ。東京大学卒業後、農水省入省。九州大教授などを経て現職。著書は『悪夢の食卓 TPP批准・農協解体がもたらす未来』(KADOKAWA)など多数
撮影・山城屋龍一

「大筋合意」とはとても言えない

 離脱した米国をのぞくTPP11は「大筋合意」したのでしょうか。強引に合意を装ったというのが正確でしょう。

 閣僚声明文のとおり、「核となる項目」(コア・エレメント)について合意しましたが、マレーシアが主張する国有企業の優遇禁止の凍結や、カナダが求めていた文化産業の著作物保護の例外扱い要求など、4項目は未解決のまま残されています。だから、カナダが首脳間で合意を確認するレベルでないと言ったのは当然です。これで大筋合意と言うなら「言葉遊び」で何とでも言える。納得していない国に早く降りろと圧力をかけていく姑息(こそく)な手段です。年明けの署名をめざすとしていますが、カナダなどが安易に屈しないことを望みます。

「ジャイアン」ぶる政府の姿勢を見て

 米国がいると、「ジャイアン」(「ドラえもん」に登場するガキ大将)たる米国にへつらう「スネ夫」役の日本が、米国がおらず、アジアの国々が中心になると、途端に自分が「ジャイアン」ぶるのです。カナダの反発もわかります。

 筆者は、以前から、日本とアジア諸国との自由貿易協定(FTA)の事前交渉に数多く参加し、TPP12で米国が他国に行った「ジャイアン」ぶりを、日本がアジアとのFTA交渉で相手国に露骨に行うのを目の当たりにしてきました。途上国の人々を人とも思わないような態度で罵倒して、日本の経済界の露骨な要求を突きつける日本政府(関連省庁)の交渉姿勢を非常に恥ずかしく情けなく思っていました。

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(写真)国を壊すTPP11、日欧EPAはやめ食料自給率向上をと訴える全国食健連の人たち=7月、東京・新宿

米国への従属を示した情けなさ

 日米FTAを避けるためにTPP11を急いだという解釈も違います。トランプ政権中は米国のTPP復帰は絶望的な中で米国抜きのTPP11が合意されたら、出遅れる米国は、逆に日米FTAの要求を強めるのが必定です。かつ、その際にはTPP以上の譲歩を要求されるのも目に見えています。

 日本政府はそれを見越しています。そもそも、米国の離脱後にTPPを強行批准したのが、トランプ大統領へのTPP以上の国益差し出しの意思表示でした。トランプ政権に差し出すTPP合意への上乗せ譲歩リストも作成済みです。先日のトランプ大統領の来日時にも共同声明では明示されませんでしたが、日米FTAへの強い意思表示がありました。

 情けない話ですが、米国にはTPP以上を差し出す準備はできているから、日米FTAと当面のTPP11は矛盾しません。いずれも米国への従属アピールです。米国内のグローバル企業と結託する政治家は、米国民の声とは反対に、今でも「お友達」企業のもうけのためのTPP型ルールをアジア太平洋地域に広げたいという思いが変わっていません。だからそういう米国のTPP推進勢力に対して、日本が「TPPの灯を消さない」努力を続けているところを見せることも重要な米国へのメッセージなのです。

アジアの収奪狙うグローバル企業

 もちろん、日本のグローバル企業も徹底した投資やサービスの自由化でアジアからの一層の収奪をもくろんでいるので、米国のTPP推進勢力と同じ思いがあり、TPP11は大歓迎です。

 マレーシアにおける小売業(コンビニ)への外資規制の緩和(外資出資禁止↓出資上限30%)など、わが国の産業界からの主要な関心分野で、TPP12で合意していたコンビニを含む流通業における外資規制の緩和などが実現できます。

 TPP11は日本がアジア途上国に対する「加害者」になる側面が大きくなります。ただし、そのことは、アジアの人々を安く働かせる一方で、米国の「ラストベルト」(中西部の“さびついた工業地帯”)のように、日本の産業の空洞化(海外移転、外国人雇用の増大)による日本人の失業・所得減少と地域の衰退を招くことも肝に銘じなければなりません。米国民のTPP反対の最大の理由が、米国人の失業・所得減少と地域の衰退だったことを想起すべきです。

「合意」急ぐために農業はないがしろ

 しかも、米国を含むTPPで農産物について合意した内容を、米国抜きのTPP11で修正せずに生かしたら、たとえば、オーストラリアやニュージーランドは、米国分を含めて日本が譲歩した乳製品の輸入枠を全部使えることになります。米国が怒って米国にもFTAで輸入枠を作れということになるのは必定で、結果的に日本の自由化度は全体としてTPP12より間違いなく高まり、国内農業の打撃は大きくなります。

 ただでさえ量が大きすぎて実効性がないと評されていた牛肉などの緊急輸入制限の発動基準数量も未改定ですから、TPP11の国は、米国抜きで、ほぼ制限なく日本に輸出できます。

 合意を急ぐために日本農業はないがしろにされました。新協定の6条で、TPP12の発効が見通せない場合には内容を見直すことができることになっていますが、具体的な確約ではなく、他国が容易に応じるとは思えません。「気休め」条項にごまかされてはいけない。

 TPPでは米国の強いハード系チーズを譲り、日欧経済連携協定(EPA)では欧州連合(EU)はソフト系が強いから、今度はそれも差し出して、結局、全面的自由化になってしまったという流れも、いかにも場当たり的で戦略性がない証左です。TPPでも、EU・カナダ間FTAでも、国益として乳製品関税を死守したカナダを少しは見習うべきです。

 終わりなき米国へのごますりと、戦略なき見せかけの成果主義では国民の命は守れません。


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