2017年4月5日(水)
きょうの潮流
イギリスの思想家、ジェレミー・ベンサムは18世紀の後半に円形の監獄を考案しました。看守のいる監視塔が中央に建ち、その周りを囚人たちの独房がぐるりと囲む。パノプティコン(一望監視)と呼ばれる施設です▼つねに看守の監視下にあることを意識させ、囚人同士は孤立させる。後にフランスの思想家ミシェル・フーコーはこれを、少数の権力者が多数の個人を監視する近代管理社会の起源とみなしました▼「すべてをかぎつけ、すべてを知り、すべてを収集し、すべてを利用する」。これが対テロ戦争を始めた米国の諜報(ちょうほう)機関が掲げる方針―。情報盗聴のすさまじさを暴露したエドワード・スノーデンは、世界規模で張り巡らされた監視網の実態を語っています▼至る所にある監視カメラ、携帯電話やメール、インターネットやクレジットカード…。個人の権利の源であるプライバシーが暴かれ、監視の対象者は際限なくひろがっていく。そんな恐ろしい国家が現実になっていると▼いま安倍政権のもとで、日本も似通った社会にされようとしています。秘密法、盗聴法、人の心に手錠をかける共謀罪までも。話し合いを罪にできるこの法案は、個人の日常を監視することにつながります▼生活のすみずみまで見張られ、盗み聞かれ、密告が横行し、事実は隠される。まさに戦前の暗黒社会への逆戻りです。これまで共謀罪は幅広い国民から反対され、3度も廃案に追い込まれています。権力の乱用から人間の尊厳を守るため、今度もまた。